48.実戦
先輩は一年生を五名ずつの二つの班に分けると、二、三年生も同じようにする。三年生が八名しか居ないため、六年生からリーダーとして二人がそれぞれの班に加わった。
「お前、絶対爆発系の魔法は使うなよ、ルール違反だからな」
二年生の先輩が必死の形相でタンポポ色の髪をした先輩に言った。
「分かってるって、流石に人に向けては使わないよー」
のんびりとした声で先輩が言うと、もう一人の先輩が人が居なくても危ないから使うなと説得している。
彼らのやり取りが気になって見ていると、三年生の先輩が教えてくれた。
「あの黄色い髪の奴はデボーン・ギャレット。去年魔法の練習中に校舎を爆破させた爆破魔だよ」
お前か!と一年生はみんな思っただろう。ギャガン先生のよく言う校舎を破壊するなの元凶だ。
「どうにも爆破系の魔法が好きみたいでな、二年の要注意人物だ」
爆破系の魔法は鉱山や工事現場でしかほとんど使われない魔法の筈だ。魔法陣を暗記しているのは、その仕事をしている人位だ。それほど被害が大きいし、慎重に使わなくてはいけない魔法だ。
「確かに派手でカッコイイですもんね、爆破魔法って」
グレイスが本気でそうは思っていなさそうな口調で言う。
テディーとは班が別れてしまったから、今隣にはグレイス一人だ。
「おまたせしました。早速作戦会議を始めましょう。私は今この班のリーダーになりました、フローレンス・オニールです」
銀色のふわふわの髪をした女の先輩だ。六年生にも女性は一人しかいないみたいで、気になっていたんだ。
「まずは真ん中を取りに行きます。速さに自信のある人から攻撃側に、自信の無い人は防衛側に回りましょう」
一年生の皆が僕を見た。たしかに1番速いのは僕だけど、一斉に見られると驚くからやめて欲しい。
「基本的には防衛に六人、攻撃に九人位がいいでしょう。必ず三名はキューブの防衛に残ってもらいます。まず防衛班を決めましょうか」
先輩は速さに自信の無い順に防衛班を決めた。それから細かい作戦を立てる。
僕は基本的に攻撃班から動くことは無いようだ。
渡された黒の腕輪をつけて、ゲームが始まった。
開始の合図とともに、最高速で真ん中を取りに行く。赤も同じ動きをしている。全速力でキューブに触れると、見事真ん中を取ることに成功した。ここからは真ん中のキューブに三名残して、ほかのキューブを取りに行く。
速く飛びながら魔法を使うのはとても難しかった。辛うじてバランスを崩さずに魔法を放つと、避けられなかった赤組の生徒が落下していく。その隙を狙って、僕にも魔法が放たれた。僕は落下しながら速いだけじゃダメなんだと痛感していた。相手の魔法をいかに上手く避けられるかも大切だ。
そして飛びながら安定して魔法を放てるようにならないといけない。
僕はなんとか体勢を立て直すと、上空の攻撃組に合流した。そして総攻撃を仕掛ける。なんとか敵陣のキューブを取る事が出来た。そこまでは順調だったが、終了間際に自陣のキューブを取られてしまい、結局三対二で黒の勝利となった。
先輩達の所に戻る途中、後ろからテディーに強く背中を叩かれた。ビックリした。
「あー悔しい、せっかく人数割いてマークしたのにな」
僕はマークされていたのか、必死すぎて気づかなかった。確かに僕が動く度に狙われていた気もする。
グレイスがクスクス笑っている。グレイスは今回は防衛班だったから、僕のことが良く見えていたんだろう。
「グレイスも、次々こっちの仲間撃ち抜くんだもんな。近づけなかったよ」
グレイスの方はあまり見えていなかったけど、流石の魔力操作技術だったのだろう。グレイスの防衛していたキューブは敵が近づけなかったようだ。
かなり大変だったけど、楽しかったな。
先輩達がいる場所に戻ると、拍手で出迎えられた。
「いい勝負だったぞー」
ドミニクと呼ばれていた先輩がまた大声で褒めてくれると、他の先輩たちも口々に褒めてくれた。
フランク先輩が皆に整列するように促すと、最初の位置に戻った。
「一年生も体験してみて難しさが分かっただろう。しかし今年の一年は優秀な者が多いようだ。これは本気で優勝が狙えるかもしれないな」
フランク先輩は上機嫌で僕らを見た。
「これから陣取り合戦の出場者を決める。出場したいという意思のあるものは各クラスの級長に報告しろ。学年は問わない」
ダレル君がアジズ先輩から用紙を受け取ると、僕達に向き直った。
「みんなどうする?」
どうせ出場選手は上級生で埋まるだろう。三、四年ならまだしも一年生はきっと入れない。なら希望だけ出してみても良いだろう。結局うちのクラスは全員出場希望になった。
ダレル君が先輩に用紙を提出すると、フランク先輩は笑った。
「今年の一年は本当にやる気があっていいな、補欠枠がもっと多ければ数人でも入れてやれるんだがな」
その言葉にダレル君は笑って言った。
「みんなわかった上で出たいと言ってますから、でも練習くらいは参加させて欲しいです。将来のためになりますし」
さすがダレル君だ。僕達は首を縦に振った。期待に満ちた僕らを見てフランク先輩もアジズ先輩も微笑ましげに頷いた。
「良いだろう、選手が決まったら練習相手になってくれ」
僕達はみんな喜んで手を叩いた。
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