33.襲撃
ナサニエルくんとジーナちゃんの初テイムから二日後、僕達はまた冒険者ギルドにやって来ていた。
『きょ~うの依頼はな~にかな~』
アオが楽しそうに歌っている。シロとモモはグレイスに撫でられていた。
「今日はゴブリン以外にしましょうか」
ナディアが依頼掲示板をみて、良さそうなものを見繕っている。
そこにメルヴィンも加わって依頼を吟味し始めた。
「よし、今日は畑を荒らすボアの討伐依頼だ、できるだけ沢山狩れば良いみたいだし、シロが居る俺らには丁度いいだろう」
『わかった!ボアを沢山探せばいいんだね!』
シロはシッポを振ってやる気十分だ。そんなシロをメルヴィンが撫でる。
「頼んだぞシロ!」
僕たちはまた転移ポータルで目的地の近くに転移する。
なんだか視線を感じた気がするが、最近人に見られることが多かったので気にしなかった。
ポータルで転移した後、目的地まで少し歩く。この側に小さな町があるらしく、その周囲のボアを狩ればいいそうだ。
町について町長の家に行くと、まだ小さいのに大丈夫かと心配されてしまった。だがシロを見てこれなら大丈夫かと思ったようで、やっと送り出してくれた。
「最近はシロ様様だね」
テディーはシロを撫でて、褒める。シロは上機嫌でボアを探し始めた。次々見つけたボアを狩ってゆく。十匹以上狩った頃、それは起こった。
人間の気配がすると思ったら、突然煙玉のようなものが投げ込まれ、僕たちは思いっきりそれを吸い込んでしまう。
意識が消えかけた時、アオの声が聞こえた。
『危ないの!睡眠薬なの!』
アオが急いで状態異常を消す魔法をかけてくれる。僕は風魔法で周囲の煙を飛ばした。これは普通の物じゃない。違法魔法薬だ。軍などでしか使う許可が降りない、巨大な魔物に対して使うものだ。
シロとメルヴィンが煙玉が投げ込まれた方向に向かって走る。そこには数人の冒険者がいた。
シロとメルヴィンは彼らを昏倒させる。男たちは話が違うと喚いていたが全て無視して捕まえてゆく。
暫く呆然としていたテディーは、ハッとして縄を取り出すと男たちを縛った。杖を取り上げておくのも忘れない。
僕は男たちの荷物を漁った。すると契約書を見つけた。シロを攫って来いという契約だ。書かれていた名前はディーン・スティルス。シロを買わせろと言ってきた子だ。
「なんでこういう違法な契約書に本名書いちゃうかな?馬鹿なのかな?」
テディーが呆れたように言う。
「こんなものどこで入手したんだろう、軍でしか使われていないはずなのに」
僕は煙玉の残骸を拾って確かめた。間違いない、民間人は使えないものだ。おばあちゃんの元に制作依頼が来たことがある。
「スティルス家は軍部を取り仕切っている家です。もしかしたら侯爵も関わっているのかもしれません」
怯えていたグレイスがモモを撫でながら言う。
「アオがいてくれて本当に良かったわ、じゃないとシロが攫われていたでしょう」
ナディアがアオを褒めると、アオは得意そうにしていた。
『私に薬なんて効かないの!』
僕たちは町の人達に頼んで彼らを運んでもらうと、冒険者ギルドに戻った。急いでお父さんに連絡を取って来てもらう。街の警備隊に渡したらもみ消される可能性があると思ったんだ。
お父さんは証拠を確認すると、男たちを連れていった。
後は大人達に任せろと言われてしまった。
僕は少し反省した。珍しい従魔は狙われる危険もあるんだ。小さくて攫いやすいアオとモモじゃなくて、シロを狙ってくるのは予想外だったけどもっと気をつけなきゃいけなかった。
その後はまた町に戻り、途中だったボア狩りを再開する。
町長さんが、あんな事があった後にと心配していたけど、みんな気分転換もしたかったから強行した。
メルヴィンは相当腹に据えかねたのだろう。怒涛の勢いでボアを狩っている。
途中テディーが見つけた価値の高い植物も集めて、かなりの重量だ。
魔法道具のバッグがいっぱいになるまで狩りをして、町に戻った。
狩った数を町長に報告すると、町長はこれで暫くは大丈夫だと嬉しそうだった。
冒険者ギルドに戻ると、受付のお姉さんにまで心配されていた。珍しい従魔を狙った犯行が最近増えていたらしい。十分気をつけるようにと念を押された。
依頼の成功報酬を受け取って、ボアを換金すると、かなりの値段になった。ボア肉は美味しいから人気で、高めの買取をしてくれる。今日の収入も申し分無い。
僕達は喜んで、ボアを見つけてくれたシロを撫でた。シロも嬉しそうだ。
家に帰ると、みんな僕とシロを心配していた。
お父さんは今回の件で忙しく動き回っているようで、家には居なかった。
ディーン君は今回、流石に罪に問われることになるだろう。証拠がはっきり残っているのだから。
おばあちゃん、今日は大変だったんだよ。人の従魔を手に入れたって懐くわけじゃないのに、どうしてシロに拘ったんだろう。珍しいからかな?
なんだかそれだけじゃないような気がして僕は不安になった。
しばらくは周りを警戒しようと思う。
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