186.未来への希望
翌日僕らは家にカラフルのみんなを招待していた。
それだけじゃない。パスカルさんやデリックおじさん、ジュダくんやトレバー君なんかも招待している。
僕は近しい人にだけでも自分の生まれを打ち明けたかった。アンドレアス殿下には許可をもらっている。きっとみんな受け入れてくれると思うんだ。
「エリスー。飲んでるか?ちゃんとたらふく食べるんだぞー。大きくなれないからな」
そういえばなぜかエリカ族長も家にやってきた。突然のエルフ族の長の来訪にお母さんは驚きすぎで腰を抜かした。今はお酒を飲みすぎて酔っ払って僕を抱き上げている。
こんなに飲んじゃって大丈夫かな。もうすぐ儀式が始まるんだけど。
「この会場寂しいわ、もっと可愛くしましょうよ」
遊びに来ていた妖精たちが会場を花だらけにしようとするので僕は慌てて止めた。
みんな自由すぎる。
「今日は本来私達と人間の友好の日さ。本来はそうだった。長い時の中で、その意味合いは薄れてしまったけどね」
僕に抱き着いているエリカ族長が何かを懐かしむような目をして呟いた。
そっか、儀式は人間と異種族の技術で行われているんだっけ。僕はエリカ族長を見つめる。
「……異種族は、もう人間と交流する気はないんですか?」
「そんなことは無いさ、きっと間に入る人間によるだろう。エリスがそうしてくれるなら、少なくとも私は大歓迎だよ」
エリカ族長は僕の心を見透かしたように言う。
実は僕も気になっていたんだよね。ジョアンナさんの異種族交流部。グレイスが前のめりで目を輝かせていたから、僕は少しいいづらかったけどさ。
「エルフ族だけズルいわ、私達だって居るのよ。忘れないでね」
妖精達も僕らに群がって、わいわい騒いでいる。
「お前、どういう状況だよこれ」
エルフと妖精に群がられている僕にトレバー君が話かけてきた。デリックおじさんとパスカルさんも一緒だ。
「あ、王子様だ」
僕がふざけて言うとトレバー君は露骨に嫌そうな顔をする。
「やめろよそれ、マジで」
ここ暫く、トレバー君は忙しくて大変だったみたいだ。それはデリックおじさんとパスカルさんも一緒だ。僕は久しぶりに会った。
「エリス……ありがとうな。アンドレアス殿下のこと」
二人に静かな目で見つめられて、僕は少しむずがゆかった。二人はアンドレアス殿下の事をとても心配していたんだろう。僕が殿下を拒絶しなかったから、ほっとしているようだ。
今日はアンドレアス殿下は儀式の手伝いに行っているらしい。色々終わっても、殿下の忙しさは変わらないのだろう。
僕は美味しそうに料理を食べているカラフルのみんなとジュダくんの元へ行った。
「あ、エリス。これ美味しいよ」
僕が戻るとテディーがお肉を差し出してきたのでそれを受け取る。
「本当だ、美味しい!」
何気ないやりとりに安心する。やっぱり僕には王子様とか向かないや。
「あのね、僕。本当は王子様なんだってさ」
僕はまるで冗談を言うような口調でみんなに言った。
「それ、さっき妖精達に聞いたよ。学園長がアンドレアス殿下で、エリスは学園長の孫だって」
みんななんでも無いような顔をして頷いている。妖精め、僕の告白を台無しにしてくれてどうしてくれよう。
「でも、エリスはここにいるのでしょう?」
グレイスが笑うから、僕は一瞬言葉につまった。でもその言葉を噛み締める。
「……うん、ここにいる」
「じゃあ何も問題ないじゃないですか」
みんながいつも通りに笑うから、僕はとても安心した。
そう、今までと何も変わらない。僕は僕だ。
そうしているうちに、空が突然明るくなった。儀式が始まったんだ。僕らはみんなでバルコニーまで走る。
見上げた空に、僕らは言葉を失った。
まるでオーロラのような光が空一面を覆いつくして、わずかな光が雪の様に降ってくる。
「綺麗……」
ぽつりと、誰かが呟いた。この間の偽物の儀式とは比べ物にならないくらい美しくて、僕らはみんな空を見つめた。
僕は胸にかけていたおばあちゃんのペンダントを握りしめる。
なんだか報告したい気分だったんだ。
ねえ、おばあちゃん。終わったよ。全部、終わった。きっと、きっと今日がみんなにとって新しい始まりになるんだと思う。
『エリスー見てみて綺麗だよ』
『シロ、動きまわらないで欲しいの!空が見えないの』
はしゃぎまわるシロに、その上に乗っていたアオ達がずり落ちないように必死だ。
トレバー君の従魔達も一緒になってはしゃいでいる。
僕の家族、友達、みんなみんな僕の宝物だ。今までも、これからも。
おばあちゃん。僕に祝福をくれてありがとう。おばあちゃんが繋いでくれた縁のおかげで、僕は夢の様に幸せだよ。
だから僕もみんなを幸せにできるように頑張るね。
おばあちゃん、どうかこれからも僕を見守っていて。約束だよ。
これにてひとまず完結です。
長い間応援して下さってありがとうございます。
落ち着いたら少しエピローグをあげるかもしれません。
色々と後悔の大きい作品でしたが、なんとか完結まで行けて良かったです。
新連載の方応援して下さった方もありがとうございます。
この作品の反省を活かしてそちらも頑張ります。




