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祝福されたテイマーは優しい夢をみる【2巻発売中】  作者: はにか えむ


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179/186

179.街の様子

 翌日エルフの里から帰りがてら街を歩くと、大通りは大きな荷車を屋台代わりにした商人であふれかえっていた。モモがグレイスの腕の中から顔を出して不思議そうにしている。

『みんな野菜や果物をつんでいますね』

 豊穣祭は何かあった時のために備蓄されていた食料を調理して、みんなで食べる日でもある。そして倉庫の中身を新しいものに入れ替えるのだ。

 大きな商会はお高い高性能の魔法道具で生鮮食品を長期保存していたりする。しかしいくら魔法で長期保存ができるといっても、さすがに何十年も前のものをそのまま入れておくのは気分的にも良くない。五十年に一度の豊穣祭や、一年に一度の収穫祭で適度に消費して新しいものに入れ替えるのが習わしだ。

 豊穣祭は特に古いものを全て処理してしまおうという考えの人が多いので、街は在庫処分したい商人でいっぱいになっているのだ。

 

「すごい!こんなに野菜が安く買えるなんて!豊穣祭様様ね」

 あたりの屋台を見回したナディアはとても嬉しそうだ。きっと後でたくさん買って保存食を作るのだろう。

 僕らが屋台を冷かしながら歩いていると、パスカルさんのお店の近くにさしかかる。

「ちょっとパスカルさんのお店に寄って行かない?冒険の道具も安くなってるかもしれないし」

 僕が言うとみんな賛成してくれた。パスカルさんなら今の街の穴場にも詳しいだろうと話しながら軽い足取りで歩いてゆく。

 

「あれ?お店閉まってるよ。長期休業だって。豊穣祭が終わってからもしばらくお休みみたいだよ」

 お店に着くとテディーがシャッターにはられた張り紙を読みあげる。僕はなんだか嫌な予感がした。そういえば、パスカルさんはアンドレアス殿下の部下だった。

 僕達の知らないところで何かが起ころうとしているのだろう。パスカルさんは大丈夫なのだろうか。

 

 その後は気を取り直して街歩きを楽しんだ。いつもと違う活気に満ちた街の様子が、僕らにも伝染してとても楽しい。お祭りの前でこれなら当日はどれほど楽しいだろう。

 いつもより道幅が狭くて人が多いので、僕とグレイスでシロの上に乗って歩いている。シロに乗っていれば周りの人たちは自然と避けてくれるのでテディー達も歩きやすそうだ。

『あ、ドナさんとダレル君の匂いだ!挨拶に行こうよ!』

 商店街の中にある空き地の近くで、シロがそう言うので空き地に向かう。そこは豊穣祭の間芸人さん達のショーが行われたりしているらしい。

 

「ドナさん!ダレル君にお父さんもこんにちは!」

 ステージの前で何やら話し込んでいる様子のドナさんとダレル君のお父さん。そしてステージの上を見つめているダレル君に挨拶する。

 ドナさんとお父さんは忙しいのだろう。軽く挨拶を返したら再び話し込んでしまった。

 代わりにダレル君がこちらにやってくる。

 

「みんな久しぶり!元気にしてた?」

 そう豊穣祭の準備期間中、学園は長期休みだ。国を挙げた大きな祭りだから特別なんだ。ダレル君と会うのも久々だった。

「明日ここでテイマーサーカスのショーがあるんだよ!うちの店で衣装提供してるんだ!みんなで観においでよ」

 僕達は明日も予定が空いている。喜んで観に行くと約束した。

 

 しばらくみんなで話していると、ひとりの男の人に声をかけられる。

「君の従魔かっこいいね。記念にみんなの写真を撮らせてくれないかな?」

 その人は旅の写真家なのだと名乗った。撮影機は高価だから旅の写真家なんて珍しいなと思いながらも、撮った写真を僕らにもくれるというので了承した。

 写真を撮ってもらう間、男の人は積極的に僕に話しかけてくる。

「こんな大きな従魔がいるってことは、どこかのお坊ちゃんなのかな?」

「……僕はこの領の領主の家の子です」

「そうか、それなら大きな従魔でも問題ないね。羨ましいなぁ」

 たくさん話かけてくるからちょっと警戒したけど、にこやかに話しかけてくる様子に不審なところは見られなかった。

 

「君達も明日のテイマーサーカスを観に来るのかい?楽しみだね」

 最後にそう言われて、男の人と別れる。撮ってもらった写真は部屋に飾ろう。

「あなた達も写真を撮ってもらったの?」

 話が終わったのだろう。ドナさんが僕達の元へやってくる。

「あの人、ここ数か月この辺りに滞在してるのよ。色々な子供達の写真を撮ってるの。子供にばかり声をかけるから、最初は街の自治会で警戒してたんだけど写真を撮るだけだから大丈夫ってことになったみたい。なにもされなかった?」

 僕らは大丈夫だとドナさんに返す。彼が不審者だったところで、写真一枚撮られたくらいでどうにもならないだろう。危険なことはないはずだ。

 

 みんなで明日の予定を話し合って、帰路につく。豊穣祭までもう少し。

 机の上のおばあちゃんのペンダントの隣に今日の写真を飾ると、僕はペンダントに向かって今日の出来事を話した。

「……ねえ、おばあちゃん。おばあちゃんの恋人は、一体何をしようとしているのかな?」

 最後にそう締めくくるとベッドの上に寝転んだ。

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