173.パーティー当日
今日は兄さんのお見合いパーティーの日だ。朝から家中が慌ただしかった。
『シロはエリスの側に、なるべく招待客に近づくようにするの。私とモモはスイーツのテーブルの下で女性達の会話を聞きだすの。必ず兄さんにぴったりな子を見つけるの!』
アオは気合たっぷりに宣言した。チャチャとクリアは飛び回って異常がないか確認するらしい。クリアは良いけどチャチャは大丈夫かな。なるべく目を離さないようにしてもらわないと。
招待客は三十人ほどだ。女性と男性比率が半々くらいかな。これのパーティーは兄さんだけではなく他の人にとってもお見合い代わりになるらしく、兄さんの友達も気合いが入っているようだ。
今のこの国の貴族はおばあちゃん達が起こした改革のせいで、昔の様にたくさんの貴族を招待した華美なパーティーをしないので、見合い代わりに開かれる小さなパーティーは貴重な出会いの機会なんだそうだ。貴族って大変だな。
僕も今日はおめかししている。汚してしまいそうでちょっと怖いんだけど、この家で暮らしていくなら慣れろと父さんに笑われてしまった。
最初の挨拶のためにみんなで玄関前で待機していると、とうとう門が開いて何台もの馬車が入ってくる。玄関前のロータリーが機能している所を僕は初めて見た。家は何十年も前からある由緒正しい屋敷だから、貴族が派手な生活をしていた頃の名残が各所にある。玄関前のロータリーもその一つだ。
最初に馬車から降りてきたのは兄さんの友達達だった。数人で一つの馬車に乗ってきたらしい。下級貴族は専用の馬車を持っていないことも多いので、こちらから各家に迎えを出したそうだ。
玄関前で軽く挨拶して僕も紹介してもらう。後がつかえているので本格的な会話は会場に移動してからになる。すぐに使用人が彼らを会場まで案内した。
兄さんの友達の中には弟を連れてきてくれた人もいた。僕より少し年上の子が多かったけどおかげで僕も退屈しないで済みそうだ。
一人がシロ達を見て目を輝かせていて、とても名残惜しそうに去っていった。あとで話しかけてみよう。
後続の馬車からは女性もおりてくる。僕は思わずじっと見てしまう。彼女達の中から兄さんのお嫁さんが決まるかもしれないのだ。
兄さんは表向き普段通りだけど、女性と話す時だけ少し様子が違う気がする。頑張れという意味を込めてにいさんの背中を軽く叩くと、助けを求める目で見られた。
残念だけど、僕は何もしてあげられない。今回のおもてなし役は兄さんなのだ。僕がでしゃばるのはおかしい。
『さて!みんな持ち場につくの!お見合い大作戦の開始なの!』
招待客が全員到着すると、アオが楽しそうに会場にかけてゆく。シロ以外はみんな行ってしまった。
「兄さん、僕達も行こう」
兄さんを見ると、ものすごい嫌そうな顔をしていた。挨拶だけで気力を持っていかれたらしい。
兄さんの手を取って引きずるように会場である中庭に向かうと、中庭が見えたとたんしっかりとした足取りになった。さすが『役者』のジョブ持ちだ。
中庭につくと歓談していた招待客が一斉に静かになって兄さんを見る。兄さんは改めて挨拶をした。こういう時の兄さんは本当に堂々としていてかっこいい。
挨拶が終わって開催の宣言をすると、兄さんの周りに人が集まっていた。僕はなんだか肩身が狭そうに固まっていた三人の子供組の方へ行く。
「本日は足をお運びくださりありがとうございます」
僕が言うと、男の子達は緊張したように返してくる。さっきシロを見て目を輝かせていた子がおずおずと聞いてきた。
「あの、他の従魔はどうしたんですか?」
僕はとっさに返答に困ってしまう。まさかスパイ活動をしているなんて言えない。
「どこかで遊んでるんだと思います」
相手はそれで納得してくれたようだけど、残念そうにしていた。
男の子達はそれぞれアンディー、クライス、ジョアンといって、下級貴族の子達だ。僕達はシロのおかげかすぐに仲良くなった。
シロをかっこいいと褒められて僕も嬉しい。
「そうだ、きょうは変わったお菓子をたくさん用意してるんだ。みんなで食べよう」
そう言うと、三人は大喜びでそれぞれお菓子を取りに行った。
各々お菓子や料理を取って休憩用に置いてあるテーブルにつくと、一人の女性が話しかけてくる。それはジョアンのお姉さんだった。
ちなみにジョアンにはお姉さんとお兄さんが居て、お兄さんが兄さんの友達らしい。
「弟をよろしくお願いします」
そう言って深く頭を下げた。ジョアンのお姉さんは、僕から見ても感じのいい人だなと思った。
お姉さんが去ってゆくと、クリアがチャチャを乗せて飛んでくる。
『アオ姉さん的にも彼女は高得点だそうた』
……僕が楽しんでいる間にも、アオ達はしっかり仕事をこなしているらしい。




