170.望遠鏡
お祖父さんからのプレゼントの中には、目が飛び出るくらい高価なものもあった。
その一つが望遠鏡の魔法道具だ。それは僕の部屋の天窓の下に設置された。
『星が大きく見えるんですよね、凄いです』
モモまでが昼間なのにレンズを覗いて興奮している。
『星読み占いができるの! 楽しみなの』
アオが書庫から持ってきたらしい星読み占いの本を眺めて嬉しそうだ。
「星読み占いってどうやるの?」
僕がアオに問いかけると、アオは楽しそうに語ってくれた。
『人にはそれぞれ守護星があるの、それと他の星との位置関係で未来を占うの』
なるほど、ちょっと楽しそうだな。カラフルのみんなを呼んでやってみようか。
『それは俺達も占えるのか?』
クリアの言葉にアオは頷く。守護星は質問に答えていくことで導き出されるらしい。
この世界の星は少し特殊だ。前世の世界の常識では星が法則を無視して動くことは無いけど、この国の星は妙にカラフルだし法則通りに動くものに、自由に動くものもある。
正直どうなっているのだろうと思うんだけど、この世界の誰もが宇宙には行ったことがないからわからない。
でもそういうものだと思って生きている。
星読み占いは占い師のジョブを持たない人がやる占いの中ではポピュラーなものだ。
占い師のジョブ持ちは道具なんかなくても占えるけど、占うのにお金を取るのが普通なので、一般の人が気軽にやる占いが星読み占いなのだ。
『望遠鏡があれば肉眼で見るより細かく占えるの』
いつの間にか従魔みんなで星読み占いの本を読んでいた。みんな自分の守護星を特定しようと楽しそうだ。
僕は学園でカラフルのみんなに声をかけると、星読み占いのためのお泊り会を提案する。
みんな快く了承してくれた。
「それにしても望遠鏡なんてすごいもの貰ったね、流石領主様」
テディーが言うけど、望遠鏡をくれたのはお祖父さんだ。でもお祖父さんのことは言えないから嘘をつくことになってしまう。ごめん、お父さん。
「星読み占いなんて久しぶりです。私の守護星は見つけたんですけど、前は周りの星がよく見えなくて占えなかったんですよね」
グレイスは難しかったのだと、苦笑している。
「おし、準備したらエリスの家に集合な。楽しみだな」
メルヴィンの一声でみんな解散する。僕も早く家に帰っておもてなしの準備をしよう。
星読み会のため、僕は床にクッションをたくさん置いた。望遠鏡を囲むように置くと、なんだか天体観測らしくなって満足した。
やがてみんながやってくると、夕食を食べながら、星が出てくるのを待つ。
「わー、大きい望遠鏡!これめちゃくちゃ高いんじゃないの!?」
部屋の望遠鏡を一目見て、テディーが目を丸くする。
「壊さないようにしないとね」
ナディアは慎重に望遠鏡を撫でている。組み立ての時にちょっと乱暴にしちゃったけど、頑丈そうだったから簡単に壊れないだろう。
「おおーすっげぇ、小さい星も綺麗に見えるぞ!」
いち早くレンズを覗いたメルヴィンが興奮している。僕らはしばらく順番に星を見るのを楽しんだ。
「じゃあ、エリスから占うか!どれがエリスの守護星だ?」
「えーっと、僕の守護星は紫の星だよ。北の方にあるみたい」
初めての僕達は星を探すのに少し手間取った。星読み占いの本を読みながら周りの星を見てゆく。
「この位置関係だとあまりよくないみたいね。近いうちに大きな災難が訪れるだろうってでているわ」
大きな災難?ちょっと怖いな。
「でもこの災難を乗り越えたら道が開けるそうですよ!頑張ってくださいエリス」
グレイスの励ましに僕はちょっと不安が解消された。
それからみんなも占ってゆく。
「私は小さな変化を見逃さないことですね」
「私は迅速な行動が未来を切り開くね」
女の子組はとても楽しそうだ。メルヴィンとテディーはちょっと飽きたらしく、クッションにもたれて眠そうにしている。
従魔達も全員ナディアとグレイスが占ってくれて、みんな嬉しそうだ。
きゃあきゃあと女の子組が騒ぐのを見ながら、僕はおばあちゃんのペンダントに視線を向けた。
そういえば、昔おばあちゃんが占いをしてくれたことがあったっけ。
『エリス、お前は将来その優しさで多くの人を救うだろう。どれだけ理不尽に思えても、自らを慕う人を見捨ててはいけないよ。それはエリス自身のためにならない』
言われたころはまだ本当に小さくて、よく意味が理解できなかったけど、今ならわかる。先日のお祖父さんの事も、きっと怒って蔑ろにしたらいけなかった。この先、他にも僕が許さないといけない人が現れるのだろうか。




