164.剣士デビュー
研修二日目の朝だ。僕はマシンさんに起こされて目を覚ました。
テントから出てあくびをしていると、シロが水の入ったバケツを咥えてやって来た。すぐそばの川から水を汲んできてくれたらしい。シロの毛は濡れていた。
僕とメルヴィンとテディーはその水で顔を洗う。女性陣は川まで水浴びに行ったらしく、その間に朝食の用意をした。
「お前なぁ、普通にスープ作ってるけど冒険者の朝は普通パンを齧るだけなんだぞ」
マシンさんがあきれ顔で僕を見ているが、料理に関してはあまり譲りたくない。朝食はしっかり食べるべきだと思う。僕達成長期だしね。急いで食べるから許してほしい。
僕がスープを作っている間にシロは一狩り行ってきたらしく、クリアと共にボアを食べていた。野性味があふれている。
ちゃんと皮の部分は売れるように、風魔法で切り裂いて肉だけ食べてくれているのがシロらしい。
シロの真っ白な毛は血で汚れていたが、アオが魔法で綺麗にしてくれるだろう。
川から戻ってきたみんなも一緒に朝食を食べていたら、リーンさんの知り合いの冒険者さん達に声をかけられた。昨日から野営スポットにいた人達だ。
大目に作っていたスープをご馳走しながら森についての情報交換をした。今の所異常は無いが、今年は例年に比べてボアやラビットが多いらしい。去年ブラックベアなど大型の魔物を間引いた成果が出ているそうだ。
僕達にとっては最高の研修環境だ。お礼を言って別れると、テントはそのままに研修を開始する。
昨日に引き続きシロ達の協力禁止で、魔物狩りの始まりだ。今日は女性陣と男性陣に分かれることになった。アオとモモには念のために女性陣の方へ行ってもらって、シロとクリアとチャチャは僕らについて来てもらった。
しかし手出しを禁止されているのがもどかしいのだろう、シロは少し離れてたまに獲物を狩ってきてくれた。
マシンさんもしょうがないなと笑っている。
「エリスも一度前衛になってみるか?」
マシンさんが僕の腰の魔法剣を見て提案してくれる。僕の剣の技量はまだまだだけど、やってみたい。
これは杖代わりにも使える魔法剣だけど、本当のお母さんがそうだったように僕も杖としては使うつもりは無かった。だって魔法を使いながら剣で斬るのは難しすぎる。使い手が少ないのも納得だ。
「俺は一回下がるから、頑張れよ!」
メルヴィンが応援してくれたので僕は気合を入れて前に出た。メルヴィンも杖を出してたまには魔法の練習をするようだ。
「最初はラビットからがいいか。探すぞ」
マシンさんが僕達にラビットを探すように促すと、地面を見て獣の跡を探す。シロが何やらもの言いたげな目でこちらを見ているので、きっと近くにラビットがいるのだろう。
「あ、ラビットの足跡発見!鑑定によると最近の物だよ」
テディーの鑑定は探し物の役にも立つのだと、この研修で初めて知った。普段は貴重な植物や鉱物を探すことにしか使っていなかったらしい。まあ、目に入るものすべて鑑定していたら頭がパンクしちゃうからな。
僕らはやっとの思いでラビットを見つけると、狩りの準備をした。
初めての前衛に心臓がドキドキした。魔法使い組が逃げ場を塞いで剣で狩るから、とどめを刺すのは僕になる。魔法で狩るのは慣れているのに、剣に代わるだけでこんなに緊張するなんて思わなかった。
テディーとメルヴィンが魔法で足止めしてくれたので、僕はラビットに向かって駆け出した。良くねらって剣を振り下ろすと、一応はラビットに命中する。でも一撃で仕留めることはできなかった。ラビットが苦悶の表情を浮かべるのが可哀そうで、僕はすぐさま急所を狙って剣を振りおろす。
「うん、悪くないな。ただまだラビット以上の獲物を相手にするのは危険かもな。少しずつ練習していこうか」
なんとか狩れたラビットを見てマシンさんが褒めてくれる。僕は初めて剣で倒した魔物に嬉しくなった。
研修はとても有意義なものになった。野営スポットに戻ると、女性陣がもう戻って来ていた。だいぶ仲良くなったらしく楽しそうに会話している。ナディアはリーンさんと剣で打ち合っていた。稽古をつけてもらっているようだ。
『お帰りなの!怪我はないの?あったら治してあげるの!』
アオとモモが僕の所に戻って来て聞いてくる。幸い怪我無く終わることができたので、大丈夫だよと言ってアオを抱きしめた。
明日には帰るだなんて寂しいな。今夜はとびきり美味しいカレーを作ろう。またマシンさんに怒られちゃうかもしれないけど、なんだかんだ美味しそうに食べてくれるから大丈夫だよね。




