160.大目玉
カラさんがエドさんの耳を引っ張ってナディアから引きはがすと、僕らは森に入ることになった。一応近隣住民が使っている細い山道もあるんだけど、僕らはそれを無視して森を歩くことになる。
広い森だから迷子にならないように方角の確認をしっかりするように教えられた。カラフルのみんなはシロがいるおかげでいつも方角の確認が疎かになっていたから、いつも通り進もうとしたらマシンさんに大目玉を食らった形だ。
「お前らいつでもシロがいると思うなよ!はぐれる場合だってあるんだ、最低限の事は常に自分達で気をつけろ!」
正論すぎてぐうの音も出ない。
『大丈夫だよ、僕がいつだってみんなを守るから!』
「シロも不満そうにするな!これは大事な事なんだぞ!」
シロが吠えるとマシンさんはシロの事も叱り飛ばした。普段は優しいけれど冒険の事になると厳しい。僕らはそろって反省した。シロだけはまだ不満そうだ。
改めて方角を確認して、ギルドで販売している地図を見ながら森へ入る。
「さてまずは軽く獲物を狩りながらそれぞれのパーティーの実力を見ましょうか」
リーンさんがそう言うので、僕らはシロの鼻で獲物を探してもらっていつものようにボアを狩った。モモがシールドを張ってくれて、機動力のあるクリアとシロが獲物を僕達の方へ追い込んでくれた。
「……お前達は少し従魔に頼らない冒険の仕方を練習するぞ。全く道理で銀級への昇格が早すぎるわけだ……」
マシンさんが頭を抱え込んでいる。カラさんとエドさんは口をあんぐり開けていた。おかしいな。デリックおじさんは従魔も実力の内だからそれでいいって言ってたんだけどな。
まあデリックおじさんは冒険者ではないし、強すぎるから森を歩くのに慎重になる必要もない。だから僕らを見ても危うさを感じなかったのかもしれない。
森の怖さを知っているマシンさんにとっては僕らの冒険の仕方は危ういのだろう。
「じゃあ、気を取り直してカラ達にやってもらいましょうか」
アリリスさんが苦笑しながら言うと、エドさんが任せて下さいと叫んだ。その目はナディアに向いている。ナディアはエドさんに一切目を向けずにカラさんを見ていた。名門校に通う女性剣士だ、見ているだけで勉強になるという判断だろう。もしくはエドさんを見たくないだけかもしれないけど。
二人は地面に残った獲物の痕跡を探して歩き出した。僕達はシロに匂いを追ってもらうのに慣れているから普段は全くやらないことだ。
結構な時間がかかってやっと獲物を見つけた二人は、両側から挟み込むように近づいた。やっぱり剣士二人では獲物を狩るのも大変なようだ。しかし、二人とも実力は確かなのだろう。剣の腕前だけで不利をカバーしているように見える。
「すごいわ……!」
同じ剣士として鍛錬をしているナディアにはわかるのだろう。カラさんを羨望の眼差しで見つめている。カラさんでこれならリーンさんとフェルミルさんはもっと強いのだろう。ナディアにとってこの研修が実りあるものになるといいな。
獲物を狩り終わったエドさんは自慢げにナディアの方を見る。ナディアがシロに隠れる位置をキープしているので、そばに居る僕もいい加減に鬱陶しく感じてきた。エドさんの後ろからカラさんがジト目で見ているのも怖い。心なしかメルヴィンもエドさんの視線を遮る位置をキープしてくれている気がする。
「じゃあグループを組みかえて、基礎から始めようか。カラ達だって魔法使いとの共闘の仕方を練習したいだろ?」
リーンさんの提案にグレイスとテディーと別れた。魔法使いは三人だから三組に分かれるのは必定だ。
エドさんがすかさずナディアと組もうとするが、その前にグレイスが珍しく大きな声で言った。
「では女性三人で組むのがいいと思います!バランス的にもちょうどいいです!」
ナイスグレイス!グレイスもエドさんの暴走を気にしていたんだろう。テディーも空気を読んでエドさんと組むと言い出した。僕はメルヴィンと組むことになる。
今日は出番が無いと知って拗ねたシロ達に、もしもの時のための警戒をお願いする。するとみんな喜んでそれぞれのグループに散った。シロは僕の所に、モモはグレイスの所、そしてアオはテディーの所だ。クリアは迷子になりやすいチャチャのお目付け役として僕の側に居る。
久しぶりの従魔の力を借りない冒険は、なかなかに楽しかった。メルヴィンと二人というのも緊張感があって良かったように思う。僕らにはマシンさんが講師としてついてくれたから、一日で成長できたような気がする。
有意義な戦闘訓練が終わると、僕らは森の中に作られた野営スポットに向かった。いよいよお待ちかねの野営訓練だ。




