158.お買い物
無事家族に研修の許可をもらうことができた僕らは、今日は放課後に買い物に来ていた。
みんなでパスカルさんのお店に向かう。
「へー、こんなところに冒険者向けの店なんてあったんだな」
メルヴィンが少し不思議そうにしている。パスカルさんいわくこのお店はわざと人通りの少ないところに建てたらしい。パスカルさん一人で対応できるようにしたかったそうだ。
でも大魔女の回復薬を置いている店として知る人ぞ知る店なんだ。いつも僕が行くときは昼間で冒険者は冒険に行っているから、空いてるんだけどね。
「パスカルさん、いますか?」
僕が扉を開けて中を覗き込むと、パスカルさんは雑誌を片手にお茶を飲んでいた。まだ冒険者が帰ってくる時間じゃないから、店にお客さんは居なかった。この後忙しくなるんだろう。
「お、エリス。こんな時間にどうした?珍しいな」
「泊まり用の装備を買いに来ました」
僕が言うとパスカルさんは驚いた様子だった。
「おいおい、泊りの冒険はまだ早いんじゃないのか?夜の森は危険だぞ?」
「ギルドの研修です」
そう言うと、パスカルさんは納得したようだ。
「研修なんて十年くらい前に無くなったと思ってたが、また復活するのか。いいことだな」
完全に復活したわけではないので一応事情を説明すると、パスカルさんは良い先輩が居たんだなと感心していた。
「泊りならテントと……簡単な炊飯用の道具はいるか?一日くらいならパンと干し肉だけで済ませることも多いんだが」
「あ。欲しいです。研修なんで一通り教えてくれるみたいで」
メルヴィンが楽しそうにパスカルさんと話している。パスカルさんはメルヴィンの話を聞いていくつかの道具を出してくれた。
新たに買いそろえるものはそう多くはない。炊飯といってもお湯を沸かしてスープを作ったりお肉を焼いたりする程度だし、火おこしに使う道具はすでに持っている。泊りじゃなくても軽くお湯を沸かすことくらいはあるからだ。よくグレイスが美味しい茶葉を持ってきてくれるから、合間の休憩に飲んだりしていた。
『わーテントだ!いいなあ、僕が一緒に入れる大きさのもあればいいのになぁ』
シロが三人用のテントを見て残念そうにしている。シロが一緒に入れる大きさとなると、軍隊なんかが使う大きい天幕のようなものになるんじゃないかな。さすがにそれは置いていないだろう。
「男女別で三人用と二人用のテントがあればいいだろう。……シロは、テントの外で寝てもらうしかないかな。シロ用の敷物も用意するか?テントの床に敷くタイプの魔法の敷物があるぞ」
魔法の敷物はスイッチを押すと膨らんでふわふわになるものだった。テント用とシロ用に買っておく。シロは大喜びだ。
「硬い地面で寝るなんてできるかなと心配していましたが、大丈夫そうですね!」
グレイスとナディアは寝心地の心配をしてたんだろう。魔法の敷物があって良かったと胸を撫で下ろしている。
冒険者グッズって意外と魔法道具が多いんだよな。やっぱりこういうグッズは軍も野営に使ったりするから、国でも使いやすいように研究されているんだろう。
「調理はエリスにお任せだね。エリスが使いやすい物を選びなよ」
テディーがフライパンを僕に渡してくる。僕は悩んだ末に五人でちょうど良さそうな鍋とフライパンを買った。すでにお湯を沸かす用の鍋はあるので、二つだけで困らないだろう。
「魔法のカバンが無い時代の人達は、どうやってこんなに持ち運んでいたんだろうね?」
買ったものを並べると、かなり嵩張るということに気が付いた。昔の冒険は重い荷物を背負って大変だったんじゃないかな?僕が考えていると、パスカルさんが教えてくれた。
「魔法のカバンを作ったのは、建国王の大賢者ロージェ様って言うからな。この国の建国と同時期にできたものだ。当時は暴政を働いた国から逃げてきた移民達を引き連れて国を興したんだ。旅が大変だったから、魔法のカバンを作ろうと思ったんじゃないか?」
建国と同時期ということは三百年以上前の話だ。建国王の大賢者様は『魔法使い』のジョブを持った魔法の天才だったって習ったけど本当だったんだな。今でも建国王より大賢者様と呼ばれることが多いのにも納得だ。
大賢者ロージェ様の功績はそれだけではない。彼は元々人が住めない土地だったここを人が住めるように魔法で作り替えた。まるで妖精のような御業を使ったのだという。この土地にかけられた魔法を維持するため、五十年に一度開催されるのが豊穣祭だ。
恐らくは来年もしくは再来年あたりに開催されるであろうその祭は、国の一大イベントだ。
そういえば、その豊穣祭で七賢者達が何か企んでいるんだっけ?僕は少し不安な気持ちになった。
買い物を終え店を出てからも、僕は不安な気持ちを消すことができなかった。




