152.おばあちゃんの慰霊碑
今日はおばあちゃんの慰霊碑の完成式典だ。僕は正装をして参加していた。
おばあちゃんと暮らした森の側の小高い丘の上、そこに慰霊碑が建てられた。
真っ白な石に『偉大なる大魔女、ネリー・クーリエ。ここに眠る』と記されている。僕はなんだか寂しい気持ちになった。
でも、同時にとても嬉しかった。今日この式典には多くの人が参加していて、みんながおばあちゃんの死を悼んでくれている。それがとても誇らしかったんだ。
おばあちゃんは、死んだ後もみんなにとても慕われている。おばあちゃんは天から見ていてくれているだろうか?みんなおばあちゃんのために集まってくれたんだよ。
式典には七賢者派の貴族が多く招待されていた。七賢者もアンドレアス殿下以外は全員揃っている。
最初声をかけられたとき、僕は対抗戦での仕打ちを思い出して無視をしてしまった。
みんな大慌てで僕に謝罪するので、行き場のなかった気持ちをぶつけられて溜飲が下がった。
僕はお父さんの隣に居て、貴族の人達に紹介された。養子になってから一応貴族流の礼儀作法の勉強はしていたけれど、実践するのは初めてで緊張した。
この間のグレイスの家では学校の友達としての訪問だったから、貴族の礼儀作法なんて知らないメルヴィン達に合わせていたんだ。でも今日はちゃんとしっかり手順にのっとって挨拶しないと。
シロ達も今日はおめかしして僕の後ろで大人しくしている。
「安心しろ、今日はネリー様と深い交流があった貴族しか招待していない。弟子のエリスの事は尊重してくれるだろう」
お父さんが緊張している僕を宥めてくれる。
挨拶も落ち着いて少し休憩していると、濃い茶髪の六十代くらいの貴族と、四十代くらいの貴族がお父さんに話しかけてくる。
僕はその人達になぜか強い既視感を覚えた。なんでだろう?
「君がエリス君かい?私はラルフ・エヴァンス。伯爵位を賜っている」
「私はセドリック・エヴァンス。エヴァンス領の後継者だよ」
彼らは僕にとても丁寧に挨拶をしてくれた。その目はなんだか悲し気で、見つめられると落ち着かない。
「エリス・ラフィンと申します」
僕が礼をすると、彼はすぐに去っていった。しかし式典の間中、ずっと彼らからの視線を感じていた。
エヴァンス伯爵達は七賢者達と仲が良い様で、式典の合間ずっと七賢者の誰かの近くに居た。
僕はデリックおじさんの裾を引くと、問いかける。
「もしかして、僕はエヴァンス伯爵達と会ったことがある?」
デリックおじさんは目を見開いて僕を見つめる。その目は明らかに泳いでいる。
「そうだな、小さい頃に会ったことがあるはずだ」
デリックおじさんは深く息を吐くとそう言った。なんだか何か隠しているようだ。
胡乱気な目でおじさんを見つめていると、おじさんは用事を思い出したと言って僕から逃げ出した。
なんでみんな、僕には秘密なんだろう。僕はちょっとイライラしてシロに抱き着いた。
『みんな秘密ばかりなの!エリスの気持ちを考えるの!』
アオは僕のために怒ってくれる。
シロは首をかしげながら、エヴァンス伯爵を見つめていた。
「どうしたの?シロ?」
『うーん……あの人達、エリスと匂いが似てるんだ』
僕はその言葉に固まった。同時に頭に浮かんだ仮説に僕は動揺していた。
『もしかして、エリスの本当のお父様とおじい様でしょうか……?』
モモが僕の思ったことを言葉にする。まさか……でも、僕はお父さんに関しては何も知らない。生きているか、死んでいるのかも。そして前にエリカ族長が僕にはおじいさんが居ると言っていた。でもそれが誰なのかは、まだ知らない方がいいとも……。
ああ、なんだか、頭の中がぐちゃぐちゃだ。変な期待はするべきじゃないと思ってる。でも、もしかしてと思ったら止められない。
一度そう思ったら、僕と彼らは顔立ちが似ているように見えた。
最近は色々な事があって、僕は疲れているのかもしれない。
きっと僕の勘違いだ。そうに決まってる。……でも、僕は少し、エヴァンス家について調べてみようと思った。
おばあちゃん、僕はどうしたらいい?みんな僕のために知らない方がいいというけど、僕はもう疲れたよ。
知りたい、僕が本当は誰なのか。どうして生まれてきたのか。そしてどうするべきなのか。
僕はおばあちゃんの慰霊碑を見つめながら、最近ため込んでいたもやもやとした感情を打ち消そうと努力した。




