150.アンドレアス殿下より
僕はそれから対抗戦当日までモヤモヤした気持ちを抱え込んだまま過ごした。
練習は楽しいけど、本番に出られないと思うとどうしても身が入らない。テディー達にも心配された。
トレバー君も僕を見かけるたび心配そうに見てくる。別にトレバー君が悪いわけじゃないんだから、そんなに気にしなくていいんだけどな。
そうきっと、誰が悪いというわけではない。だから僕はこのモヤモヤを発散させる場所が思い浮かばなくて苦しいんだ。
『エリス、大丈夫?悲しいの?』
『対抗戦に出るななんて酷いの!理由をちゃんと説明するの!』
シロが心配してアオは怒ってくれている。
対抗戦前日、デリックおじさんが話があると言って僕の部屋にやって来た。
僕はそっぽを向いて出迎える。アオとモモはおじさんの足に何度もタックルしていた。チャチャも一緒になってタックルしている。こっちは楽しそうだ。
三匹にタックルされても、おじさんは小揺もしない。見かねたシロとクリアも攻撃に加わると、おじさんはやっと降参した。
「悪かった、謝るからやめてくれ!」
両手をあげて降参するおじさんに、ひとまず攻撃をやめることにしたらしいみんなは僕の元へ戻ってくる。
「悪い、やっぱり怒っているよな。思っていたより国王の動きが派手でな。相当焦っているんだろう。出られないのは今年だけだ。機嫌を直してくれ」
デリックおじさんがお菓子のたくさん入った籠を僕に渡してくれた。七賢者一同かららしい。お菓子でごまかされると思わないでほしい。
「それと手紙を預かって来た。アンドレアス殿下からだ」
僕は驚いておじさんを見る。レトロにシーリングスタンプで閉じられた真っ白な封筒を差し出されて、ちょっと困惑した。
おばあちゃんの恋人から手紙をもらうことになるなんて思っていなかった。僕は手紙を受け取るとそっと開封する。開封した瞬間甘い香りが鼻腔をくすぐった。魔法がかけてあったらしい。おしゃれな演出だ。
中身は謝罪文だった。几帳面で綺麗な字で、巻き込んでしまって申し訳ないと書かれている。
「エリス君は似すぎている……国王に一目会ったが最後、目をつけられてしまうだろう」
まるで僕を見たことがあるかのような文面だった。もしかしたら去年の対抗戦にでも来ていたのかもしれない。もしくは月間テイマーを見たとか?どっちもありそうだ。しかし一体誰に似ているんだろう。手紙の文面は全て、肝心なところは濁して書かれていた。
手紙を読み終わっても、僕の中のモヤモヤは消えなかった。結局詳細はわからずじまいだったからだ。
未来を変えないために僕には詳細を明かせないと手紙にあったが、僕からしたら勝手にもほどがあると思う。
「あまり怒らないでやってくれ。アンドレアス殿下も落ち込んでいたから」
おじさんが僕の頭を撫でて言う。なんで殿下が落ち込むんだろう。
「アンドレアス殿下はお前に嫌われたくないんだよ」
僕がおばあちゃんの弟子だからだろうか?怒ってはいても別に嫌いになったりはしないけどな。
「すべてが終わったら、会って謝りたいと仰っていた」
「いつすべてが終わるの?」
きっと答えは返ってこないと思いながらも、質問してみる。
「……豊穣祭の後には、すべての片が付くだろう」
僕は目を見開いた。豊穣祭は五十年に一度の国の大祭だ。なにせ五十年に一度だから僕も詳細は知らないけど、とても神秘的な儀式が行われる祭りなのだと聞いたことがある。次の開催日はまだ未定だけど、正確に五十年を数えるなら来年の秋に開かれるだろうと言われているらしい。主に年配の人が楽しみにしている。
殿下達はその豊穣祭で何かを起こすつもりなのだろうか。
「これは内緒だぞ」
おじさんが僕の頭を撫でながら言った。僕は頷く。豊穣祭の後にすべてを教えてもらえるなら、そんなに先の未来ではないのだろう。僕は少し心が軽くなった。
その日の夜、僕はもらった魔法薬を飲み干した。風邪のような症状が出る魔法薬という事だったが、そんなに酷いことにはならないだろうと思っていた。しかし予想に反して、僕は三日も寝込むはめになってしまうのだった。薬の効果か熱のわりに苦しくは無かったけど、こんなに強力だなんて聞いてない。
僕は次に七賢者の誰かに会ったら断固抗議すると決めた。
更新が遅れて申し訳ありません。
この度祝福テイマーの2巻発売が決定いたしました!
皆様の応援のおかげです!ありがとうございます!
2巻はWeb版を読んで下さっている方も楽しめるよう改稿を頑張ろうと思っています。
発売まで今しばらくお待ちください!




