145.チャチャの大冒険
「じゃあみんな、授業が終わるまで静かにしててね」
『はーい』
『わかったの!』
シロとアオが元気に返事してくれる。
クリアは頷いて、チャチャは疲れたようで舟をこいでいた。
僕はモモをいつも通りグレイスに渡すと授業の準備を始める。
今日の授業は一般教養だ。ドワーフ族が人間との取引を停止した理由について、ギャガン先生が説明してくれる。なんてタイムリーな。
「教科書ではドワーフ族の方から一方的に取引を停止してきたことになってるが、実際はそこに至るまでに当時の権力者たちの横暴な取引内容の変更などがあり、ドワーフ族がブチ切れた形らしい。他の種族と結託して交流を断たれて、人間は手も足も出なかったんだ。……これはテストに書くなよ。国はその事実を無かったことにしたいらしいからな」
ドワーフ族がこの国の人間との交流を断ったのは割と最近だ。とはいっても、七十年くらい前だ。丁度おばあちゃんが生まれたくらいかな?だから当時のことを覚えている人は多い。この世界の人間の平均寿命は百年近いから当時直接関わっていた人もまだ生きているだろう。
無かったことにしたいのはそういう人たちかな。
だからこの国ではドワーフ族の作った品は高値で取引される。鍛冶と酒造の腕前がかなりのものだから、七十年前のものでもドワーフ族の作ったものは名品だ。
国によっては近場のドワーフ族と良好な関係を築いて、どんどん鍛冶技術と酒造技術を発展させている国もある。この国はそういう意味では時代に取り残されていた。その代わり他国に比べて魔法が発展しているらしい。
魔法が発展している理由は『魔法使い』と『魔女』のジョブ持ちを国で管理していたせいだから、素直に誇れないけどね。
「まあ、ドワーフ族は数ある種族の中でも人間に対して友好的だった種族だ。まともな対応をしていれば、いつか交流が再開することもあるかもしれないな」
おばあちゃんが仲が良かったくらいだ、きっとこっそりドワーフ族が交流している人間は居るんだろう。僕は少し気持ちが軽くなった。エリカ族長と一緒にドワーフ族に会いに行く約束をしたから、緊張していたのかもしれない。
授業が終わると、僕は秘密基地に向かう準備をする。グレイスもモモを抱いてこちらにやって来た。
「あれ?チャチャは?」
教室の後ろで待っていたシロ達の所に行くと、チャチャが居なかった。
『ごめんなさいなの。エリス、私がちゃんと見てなかったからなの』
アオがチャチャの行方不明を知って落ち込んでいる。シロは鼻をヒクヒクさせてどこに行ったか探そうとしてくれていた。
『窓から出て行ったみたいだよ』
シロが外を指して言う。テディーが青ざめる僕の背中を叩いて慰めてくれた。
「きっと無事だよ、この辺りにはシュガーグライダーを狙う魔物なんていないし、チャチャは魔法が使えるんだよ。強いから、大丈夫」
「すぐに探しましょう!シロちゃん、お願いしますね!」
『まかせて!』
グレイスとシロが先陣を切って外に行く。僕も走って追いかけた。
捜索は思ったよりも難航した。なぜならチャチャは木を伝って移動した様だったからだ。シロが匂いを追うのは大変だった。途中で話を聞きつけたナディアとメルヴィンも合流してくれて、みんなでチャチャを探す。
最終的に一時間くらいかかって、僕らは教室に戻って来た。
そこには泥だらけで泣くチャチャが居た。
『うわーん、みんなどこに行ってたの!置いていかないでよ!』
それは僕らのセリフである。どうやらチャチャはちゃんと自力で元の場所に戻って来ていたらしい。ただちょっと、戻ってくる時間が遅かった。なんて人騒がせな。
『こら!チャチャ。勝手にエリスから離れちゃダメなの!心配したの!』
アオがチャチャをしかりつける。今まで僕の従魔はあまりやんちゃなことをしない大人しい子ばかりだったから珍しい光景だ。
僕はチャチャが見つかってホッとした。今度から授業中もそばに置いて目を離さないようにしよう。
僕はみんなに謝って、泥だらけのチャチャを抱き上げると聞いた。
「冒険は楽しかった?」
『うん、楽しかったよ!あのね……』
楽しそうに冒険の内容を語るチャチャに、僕はため息をついた。
おばあちゃん、新しい家族はだいぶ自由みたいだよ。子守をしている気分だ。でもきっとおばあちゃんが出会わせてくれたんだよね。大変だろうけど頑張るよ。
チャチャも早く、やっちゃダメなことを覚えてくれるといいな。




