142.新しい仲間
たくさんのシュガーグライダーに見送られて、僕達は元居た場所に戻ろうとした。
「え!?テイムしないんですか!?」
グレイスが僕を見て絶望したような顔をした。
テイムしようにも僕らは助けを求められただけだ。彼らも別にテイムされたいわけではなかっただろう。
それに数が多すぎる。さすがにこんなにテイムできない。
すると僕らを案内してくれたシュガーグライダーが仲間の元に行って何やら話しているようだった。
『会議中なの、ちょっと待つの』
会議中?何の会議?わざわざテイムされに来なくてもいいんだけどな。仲間と一緒に暮らした方が楽しいだろうし。
グレイスが期待に満ちた目で、そしてそのほかは興味深そうにシュガーグライダーたちを見ている。
やがて僕らを案内してくれた子が僕の前にやって来た。
「えーと、テイムされたいの?」
シュガーグライダーは頷くと、自身の前に魔法で氷を出して見せた。
僕は驚いて言葉にならなかった。シュガーグライダーは本来魔法が使えない。だから単身僕らの元まで救援要請に来れたのか。
「またレア種だ!さすがエリス!」
テディーは大笑いしている。他のみんなも苦笑していた。
「でもいいの?君がみんなを守ってたんじゃないの?僕にテイムされたらここに戻ってこられなくなるよ?」
僕は心配になって聞いてみた。するとシュガーグライダーが僕の足にしがみつく。なんとしてでも連れて行ってほしそうだ。
「本人は乗り気の様だぞ?どうするんだ?エリス」
「うーん、本人がいいならいいのかな?」
僕はシュガーグライダーに向かって杖を構えた。魔法陣を描くと名前を付ける。
「名前はチャチャ」
すると、チャチャは大喜びで叫んだ。
『やった!ありがとう!これで冒険できるよ!夢が叶った!』
夢?冒険がしたかったのかな?なんにせよ仲間が増えて嬉しい。
「また安直な名前にしたな」
メルヴィンが呆れたように言う。
「でもエリスにしては捻った方よ」
ナディアも苦笑しながら言う。まるで僕にネーミングセンスが無いみたいじゃないか。そんなことはないはずだ。
『エリス、よろしくね!』
ポンポンと跳ぶチャチャを抱き上げると胸ポケットに入れる。大きさ的にちょうど良さそうだったからだ。
「チャチャちゃん、よろしくお願いしますね」
グレイスが嬉しそうに指先でチャチャを撫でる。
『じゃあ、父さん、母さん、さよなら!僕は夢を叶えてくるよ!みんな元気でね!』
チャチャがそう言うと、シュガーグライダー達は住処に戻っていった。
あっさりとした別れだったな。
「ねえ、折角チャチャが仲間になったんだから、このあたりのスネークをもう少し狩って行ってもいいかな?チャチャの仲間が心配だから」
僕がそう言うとみんな賛成してくれた。エリカ族長もスネークの大量発生が心配だから、後からエルフの戦士をこの辺りに向かわせると約束してくれた。
『ありがとう!これでみんなが安全に暮らせるよ!』
チャチャはポケットから顔だけ出してお礼を言ってくる。
『チャチャ!こっちに来るの!私が先輩として従魔としてのルールを教えるの!』
アオがそう言うので僕はチャチャをアオの上に乗せた。
『まず私達は家族なの、チャチャは末っ子だからみんなのことを兄さん、姉さんと呼ぶの!』
また兄弟関係が成立したらしい。僕は笑ってしまった。
『はい!姉さん!』
チャチャも異論は無い様で、楽しそうだ。チャチャをアオに任せて、僕らはスネーク狩りを再開する。
アオの上からチャチャが時々スネークを凍らせてくれたのでちょっと楽になった。
休憩中、僕はチャチャに聞いてみた。
「チャチャは最初から氷の魔法が使えるの?」
『違うよ、スネークに襲われたとき、使えるようになったんだ』
それを聞いたテディーが教えてくれた。
「ピンチになった時に何かしらの能力に目覚める魔物が居るみたいだよ。ダレル君が言ってた」
ダレル君情報なら本当なんだろう。じゃあ本当に最近使えるようになったのか。ならずっとチャチャが巣を守っていたわけではないんだな。だからすぐに旅立つのを許してくれたのかも。
「それにしてもチャチャちゃんは小さくて可愛いですねー。こっちに来ませんか?木の実がありますよ」
グレイスはもうすっかりチャチャに夢中だ。可愛い可愛いと大はしゃぎだ。モモがグレイスの足元で足をダンダンやってるんだけど、グレイスは気づいてない。
あとでモモとチャチャがグレイスをめぐって喧嘩しないといいな。僕はその光景を想像してひそかに笑った。




