139.書籍発売カウントダウン番外編 二日前
俺はデリック・ジョーンズ。今年で九歳になる。
ロージェ王国七賢者の一人……にいつの間にかされていた。
先日の王都ドラゴン襲来事件のせいだ。今、俺達はネリー様の王宮追放をきっかけに多くの『魔法使い』達と王宮を一斉離反してきたところだ。
ネリー様の王宮追放劇は見事だった。アンドレアス殿下と二人で気が短い陛下を煽りに煽って王宮追放を言い渡させた。『魔法使い』達を一斉離反させるのにも民や貴族達から見て王家が悪者になるよう仕向ける。その手腕には脱帽だ。まあ、実際『魔法使い』達を人間だと思っていない現王が悪いんだけど。
現王の一番の間違いはアンドレアス殿下を敵に回したことだと思うな。
ブライトン様は『魔法使い』救済の夢が叶って大喜びしているし、みんな機嫌が良い。しばらくは厳しい訓練もないだろうしゆっくり過ごせそうだ。
今日は七賢者でエルフの里に挨拶に来ていた。俺はその頃は小さすぎて知らなかったけど、ネリー様達が昔仲良くなったらしい。族長と面識のないメリッサと俺は緊張していた。先日異種族の収集をしていた人間の貴族の屋敷に討ち入りして、コレクションされていた異種族達を各種族に返還したばかりだ。『人間』という種族自体が他種族達からはよく思われていないんだ。緊張もする。
「ああ、お前達が小さな賢者か。本当に小さいな。これなんてまだ子供じゃないか。」
エリカと名乗った族長が、俺の頭に手を乗せて言う。俺が子供ならメリッサだって十六歳だ、子供だろう。俺が不満そうにしていることに気づいたのか、エリカ族長は笑った。
「すまないな、エルフに子供は少ないから、どうにもお前くらいの歳の子を見ると実力を疑ってしまう。小さくても賢者は賢者か」
エリカ族長はアンドレアス殿下達に向き直ると宣言する。
「無事王宮から離反出来て何よりだ。今日は友の新しい門出を祝う宴にしようじゃないか」
「まったくお前達エルフは宴宴と、騒ぎたいだけじゃないか」
呆れたようにネリー様が言うと、エリカ族長は豪快に笑う。
「はっはっは、そうさ、森は退屈だからな!うまい獲物を期待しているぞ、賢者様!」
ネリー様とエリカ族長は本当に仲がよさそうだった。
そして俺達はアンドレアス殿下とマリリン様とソドムさんを置いて、森に狩りに行くことになった。
「いってらっしゃい、森を壊さないように気を付けるのよ」
マリリン様の心配のポイントはおかしいと思う。でも実際俺達『魔法使い』が本気を出したら森なんて一瞬で焼け野原だ。だからって少しは俺達の体の心配をしてほしいと思うのは間違いだろうか。
「美味しい獲物を楽しみにしているよ」
アンドレアス殿下は通常営業だ。王族だからな。肉体労働にはいつもほとんど参加しない。
森へ繰り出すと、ネリー様が言った。
「よし、丸鶏を狩るよ。あれは旨いんだ」
俺達は王都育ちだから狩りなんてほとんどしたことない。正直勝手がわからない。
困ってるとネリー様が何かの魔法を使った。命中した先の獲物を拾いに行って戻ってくる。
「いいかいお前達、丸鶏っていうのはこいつのことだ。とにかく素早いけどそれだけだ。こいつを沢山狩ればいい。以上」
以上。じゃねえよ。もう少しなんかあるだろう。血抜きの仕方とか解体方法とかよ。見かねたブライトン様が俺達に血抜きの仕方と解体方法を教えてくれた。
ネリー様は単身丸鶏狩りに向かってしまった。
「勝負よデリック!どっちが多く丸鶏を狩れるか!見てなさい、ネリー様の弟子に相応しいのがどっちか教えてあげるわ!」
メリッサがめんどくせぇことを言いだした。俺を一方的にライバル視してくるこいつは本当に面倒くさい。というか素早い鳥狩りなんて『疾風のメリッサ』なんて呼ばれるお前の方が圧倒的有利だろう。ズルくないか?俺、身体強化以外はそうでもないぞ。
メリッサは一方的に宣言して疾風のように飛んで去ってゆく。これで後で勝ったとかと言われても面白くない。しゃーねえ、真面目に狩るか。俺は自己身体強化で自らの足を強化して森中を駆け回った。
後で知ったけど、残されたブライトン様は速さに追いつくすべを持たなかったので大苦戦していたらしい。森の中では迂闊に大きな魔法も使えないしでとことん相性が悪かったようだ。協力の重要性をぐちぐちと説教された。
ちなみに勝負には負けた。ふんぞり返るメリッサにむかついたがしょうがない。勝負は勝負だ、次は負けない。
ネリー様は大量の丸鶏を嬉々として鍋に放り込んでいた。エルフ達も大喜びだ。
つづく




