137.書籍発売カウントダウン番外編 四日前
近所の廃屋に夏限定のお化け屋敷ができたらしい。僕はパーシー兄さんにそれを聞いて興味がわいた。
「僕も制作に協力してるんだ。シロとも行きたいだろうなと思って大きい従魔でも入れるようにしてあるよ」
兄さんは友達が多いから、時々すごいことをやってのける。この間は劇団の劇制作に協力していた。
『ねえ、エリス、お化けのお家に行くの?やめた方がいいと思うよ』
シロはとても怖がっていた。お化けが沢山出てくる本を読んであげた時もそんな感じだったな。
「シロはお化けが怖いの?大丈夫だよ、みんな偽物だから。人間がお化けに扮して驚かせてくるのがお化け屋敷なんだよ」
兄さんが言うと、シロは安心したようだった。
『お化け屋敷、楽しみなの!逆に驚かせてやるの!』
キャストさんが可哀そうだからやめてあげてほしい。もっと純粋に楽しもう、アオ。
「今回のは力作だから、覚悟していった方がいいよ。ゴールできなそうだったら途中棄権もできるからね。でも最後まで頑張ってほしいな」
いたずらっ子のような笑みを浮かべた兄さんに言われて僕は絶対最後まであきらめないぞと誓う。
翌日、兄さんと一緒にお化け屋敷へやって来た。なかなか賑わっている。入場前にこの廃屋でかつて起こったという惨劇の話を聞かされる。この廃屋に住んでいた家族が何者かに惨殺されたそうだ。多分嘘なんだろうけどなかなか真に迫っていて怖かった。
僕はモモをしっかりと抱きしめ準備すると、廃屋の中に入る。兄さんは外で待っているらしい。中はとても寒くておどろおどろしい空気に満ちていた。
『おー本格的じゃねえか』
シロの上に乗ったクリアは楽しそうにしていた。クリアは怖くないのだろうか。
『お、お化け早く出てくるの!成敗するの!』
アオは雰囲気に少し怖気づいたらしい、シロの上から強がりを言っている。
『うわー怖いよう。エリス離れないでね」
シロが僕にぴったり体をこすりつけてくるからなんだか心強かった。
ゆっくり廃屋の中を歩いていると、突然誰かの悲鳴が聞こえてきた。僕らは身を固くする。突然大きな音を立てて目の前の扉が開いたと思ったら、ゆっくりと閉まる。まるで誰かが扉から出てきたようで僕はおそろしくなった。思わす周囲を見回すと、窓ガラスに血まみれの男の人が映っていた。僕は悲鳴を飲み込んだ。
『わー!お化けだ、お化けだよう』
シロがさらに体をこすり付けてきて僕は転んでしまいそうになる。
『おーよくできてんな、さすがの俺も驚いたぜ』
『エリス、大丈夫ですよ。気をしっかり持ってください』
もはや腕の中で励ましてくれるモモと冷静なクリアだけが僕の救いだった。早くゴールまで向かおう。
目の前の扉を勢いよく開けると、その瞬間クローゼットがガタガタと音を立てる。びっくりして僕はもう泣きそうだった。
その後血の付いた斧をもった執事に追い掛け回されたり、人形が突然ケタケタ笑って首が落ちたり。血まみれの女の子に足をつかまれたりしながら出口へ向かう。シロは尻尾が完全に内側に入ってしまっていて腰が引けている。アオは無言で震えていた。
『あと少しですエリス!頑張って!』
僕は何とかゴールまでたどり着いた。明るい外を見たら涙がこぼれてきた。
「おー、ギブアップしなかったか。えらいぞエリス!」
僕は職員のお姉さんに完走の景品をもらうと、兄さんに抱き着いた。シロも一緒に兄さんに体をこすり付ける。
「怖すぎるよ!」
兄さんは悪魔的に笑う。
「絶対完走させるか!って意思で作ったからね!実際半分以上はギブアップしてるよ」
それはお化け屋敷としてアリなんだろうか。でも口コミで人気みたいだし、きっとみんな好奇心には勝てないんだろう。
『やるじゃねーか兄さん、さすがの俺もちょっと怖かったぜ』
クリアが兄さんを褒めたたえる。ずっと冷静に見えたけどちょっとは怖かったらしい。
『途中の生首が転がってくるところなんてリアルで凄かったですね。私もちょっと逃げ出したくなりました』
生首?そんなのあったっけ?僕は恐怖でしっかり覚えていないのかもしれない。
兄さんにモモの感想を伝えると、兄さんは真顔になった。
「生首なんて無かったはずだけど……」
僕らは凍り付いた。それまで無言だったアオがポツリと呟く。
『本物がいっぱいいたの。怖かったの……』
翌日このお化け屋敷のお払いがなされることになった。
僕らはもう二度とお化け屋敷には入らないと誓った。




