136.書籍発売カウントダウン番外編 五日前
「暑い……」
ある夏の日僕らは秘密基地で困っていた。
「この秘密基地、空調が無いのよね。失念してたわ」
ナディアが言うとみんな頷く。明日には冷房の魔法道具を搬入するとして、今日はどうしようかとみんなで話し合う。
「流石にこの暑さじゃ外に出る気にもなれないな」
メルヴィンが水を飲みながら考えている。
『エリス、前みたいに氷作ってよ』
シロの言葉に僕は流石に室内じゃ無理だよと答えると、残念そうに床に突っ伏してしまった。
テディーがそれを見て僕に聞いてくる。
「何か涼しくなれる案でもあるの?」
僕は前にシロ達に魔法で氷を出してあげた話をする。
「氷、いいなあ、とりあえず飲み物に入れるか」
メルヴィンは飲んでいた水の中に魔法で氷を出した。魔法が苦手だからかメルヴィンが出した氷は凄い形をしている。コップに入りきれてない。
「ジェラートが食べたいですー」
グレイスの言葉に僕はひらめいた。
「かき氷を作ればいいんだ!」
僕の言葉にみんな頭に疑問符を浮かべた。かき氷はこの世界にはない。
「かき氷?また不思議な料理を作るの?」
ナディアがわくわくした表情で僕を見る。前に孤児院で料理を作った時からナディアは僕の料理の独創性をすごく褒めてくれる。前世知識だからちょっとズルしたみたいで申し訳ない。
僕は秘密基地を出て図書室で氷を粉砕できそうな魔法陣を探す。土木系の魔法の本に石を削る魔法陣があったからそれで代用することにした。秘密基地に戻って皿の上に魔法で氷を作ると、魔法でガンガン削ってゆく。そして魔法のバッグから冒険の時用に入れていた蜂蜜を取り出すと少し薄めてかき氷にかけた。
「氷を砕いただけなんだね。美味しいの?」
「本当はシロップをかけるといいんだけど、夏にはもってこいだよ」
みんなに配ると、それぞれ不思議そうにしていた。
『わーい、いただきます』
シロが早速バクバクかき氷を食べだした。
『わー、頭が痛い!痛いよ!』
そしてかき氷の洗礼を受けている。ゴロゴロと転がるシロを見てみんな何事かと思ったらしい。食べようとしていた手が止まる。
「ゆっくり食べたら大丈夫だよ。急いで食べると頭が痛くなるから注意してね」
『先に言ってよ、エリス!』
アオがシロに回復魔法をかけると、シロはゴロゴロ転がるのをやめた。痛みが引いたんだろう。今度はゆっくり食べている。
みんなも安心したのか少しずつ食べ始めた。
「うん、すごく涼しくなるね!味はなんていうか甘いだけだけど、夏にはぴったりかも」
テディーが山盛りのかき氷を幸せそうに食べている。
僕も食べてみると体の芯から冷えてゆくようで心地よかった。暑さが吹き飛んで行ってしまう。
あまり食べる気にはならなかったらしいクリアとモモは、大きめの皿の中に出してあげた氷で涼んでいる。
「これ、孤児院でも作ってあげていいかしら?きっとみんな喜ぶわ」
安上がりなデザートだからかナディアの目が輝いている。
「食紅でシロップに色を付けるといいよ、可愛くなるから。果物を乗せても美味しいよ」
僕が言うと、グレイスがなぜか魔法のバッグから果物を取り出した。
「モモちゃんにいつでもあげられるように持ち歩いてたんですけど、食べちゃいましょう」
モモ用だったらしい。最近ちょっと太り気味だからあんまりあげないでほしいんだけど、グレイスはプクプクしているくらいが可愛いと思ってそうだな。
かき氷の上に果物を乗せるといい感じに冷やされてさらに美味しかった。モモとクリアにも氷の上に果物を置いてやる。
「うわぁ!マジで頭がキーンってする!」
ゆっくり食べろと言ったのに早食いしたらしいメルヴィンが頭を押さえて唸ってる。
「だからゆっくり食べてってば」
「だってそう言われると試してみたくなるだろ?」
わざとだったらしい。なら好きにさせておこう。ナディアが呆れた目でメルヴィンを見ていた。
アオもメルヴィンを治してあげようとしていたが、わざとだと知ってやめたらしい。シロのいる方へ戻ってゆく。僕は少し考えてアオを持ち上げた。
『どうしたの?エリス?』
思った通り、かき氷を食べたばかりのアオはひんやりしていて最高だった。
僕はかき氷を食べながらしばらくアオで涼む。
「ちょっとずるいよエリス。僕らも暑いのに」
テディーが僕からアオを取り上げようとする。その前にアオは跳んで床に逃げ去った。
『モテる女は大変なの』
そう言って去ってゆく。僕らは二人とも振られたらしい。
大人しく残りのかき氷を食べると、先ほどまでの暑さが和らいだ気がする。
「これ、もしかしてジュースを凍らせて砕いたら美味しいんじゃないですか?」
グレイスがひらめいてジュースを凍らせる。それを砕いたら最高に美味しかった。僕らは色々なジュースを凍らせてかき氷パーティーをする。
翌日には秘密基地に冷房の魔法道具を持ち込んで快適な温度になったけど、僕らは夏の間中かき氷をおやつにして楽しんだ。




