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祝福されたテイマーは優しい夢をみる【2巻発売中】  作者: はにか えむ


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127.人魚

 日が落ちてきたので別荘に戻ると、先にお風呂に入ることになった。全身が海水でベタベタだから、当然だ。男性用と女性用でお風呂がわかれているらしく、すぐに入ることが出来た。

 お風呂から上がって夕食を食べていると、デリックおじさんに聞かれた。

「明日はどうする?また海で遊ぶか?」

 僕達は悩む。街にも行きたいし、この国で冒険もしたい。

 ちなみにおじいさんと兄さんは次期領主としてのちょっとした勉強があるらしく、明日の引率はデリックおじさんだ。

 デリックおじさんも他国へ来るのは初めてだから、街に行くのはおじいさんの予定が空いている日がいいだろう。

 僕らは明日も海で遊ぶことにした。

 

 翌朝みんな早起きして、お母さんが作ってくれた水着を着て海に繰り出す。するとそこには僕らと同じくらいの年代の、緑色の髪の女の子が海を眺めながら佇んでいた。

「人魚族だ……」

 鑑定したのだろう、テディーが目を見開いて言う。僕らは驚いた。ごく普通の人間の女の子にしか見えなかったからだ。人魚族は人間に擬態できるというのは知っていたけど、ここまで姿を変えられるとは思っていなかった。

 僕らは顔を見合せて、知らないふりをすることにした。人魚族はエルフや妖精と同じで強いけれど、子供の人魚なら捕まえようとする人間は後を絶たない。人魚だと気づいていると知られたら怯えさせてしまうかもしれない。

 僕らは女の子を放っておいて遊び出す。


 すると、女の子の方からこちらに近づいて声をかけてきた。

「あの、お願いがあるの」

 女の子は恐る恐る声をかけてくる。

 お願い?何だろう?僕らは顔を見合せながら女の子の話を聞いた。

「お母さんが病気なの……だから薬が欲しいんだけど、私、街へは行ってはいけないの。もちろんお礼はするわ。このお金でメモの材料を街で買ってきてくれないかしら」

 女の子が差し出したメモとお金を、デリックおじさんが受け取った。

「お嬢ちゃん、こりゃダメだ。街でホイホイ買えるような材料じゃない。どれも森の奥深くに入らなきゃ取れないような珍しいものばかりだ」

 女の子はそれを聞いて泣きそうになっていた。

 僕らは何とかしてあげたくてアオを見た。アオは先程から女の子の周りを飛び跳ねている。

『病気なら任せるの!治してあげるの』

 僕は女の子に話かけた。

「ねえ、僕がテイムしているスライムは、病気を治す魔法が使えるんだ。お母さんのところに連れて行ってくれたら、何とかなるかも知れないよ」

 女の子は首を横に振る。

「病気を治す高位魔法でもダメだったの。もう里に伝わる秘薬しか手がなくて」

 アオは項垂れた。飛び回るのをやめて僕のところに戻ってくる。

「うーん。なら材料を集めるしかないか……デリック様、集めるのは無理そうですか?」

 ナディアがメモとにらめっこしているデリックおじさんに聞いた。

「殆どは森の奥に行けば集まるが……一つだけ相当運が良くなきゃ手に入らないものがあるな。人間の世界でも高値で取引されているものだ。こればっかりは挑戦しなくちゃわからないな」

「おっしゃ!じゃあ行こうぜ!俺らならきっと手に入るだろ。グレイスもシロもテディーもいるしな」

 メルヴィンが両手を叩いて宣言する。みんな乗り気みたいだ。僕も冒険に目標が出来るのは大歓迎だ。

「しょうがないな、お前らは……俺も一緒に行くから大丈夫だと思うが、森の奥は危険だ、十分注意するんだぞ!」

 おじさんの言葉に僕らは首を縦に振る。

 女の子は目を白黒させていた。

「探してきてくれるんですか?突然お願いしたのに」

 人間と交流が少ない人魚の女の子が、危険を冒してまでお母さんを助けたいと行動したんだ。報われてほしい。

「もちろん!きっと見つけてくるよ。そしたらお礼は弾んでもらうからね!」

 僕は少しおどけて言った。女の子は目に涙を溜めたまま、何度も僕らにお礼を言った。


 僕らは女の子に自己紹介をする。

「君の名前は?」

「私はトリニです。あなた達に声をかけてよかった。沢山お礼を用意して待ってますね」

 こうして僕らは、人魚の秘薬の材料集めをすることになった。

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