125.別荘へ
僕は早朝にアオとシロに起こされた。
『エリス!早く起きるの!今日は旅行なの!』
『早く起きて!みんな来ちゃうよ』
時計を見ると起きるにはまだ少し早い。よほど楽しみだったんだろう。
僕もなんだかワクワクして、目が冴えてしまった。ちょっと早いけど起きることにしよう。
モモとクリアもアオ達の声に起きたらしい。眠そうに起き上がった。
身支度を整えて食堂に行くと、おじいさんと兄さんとデリックおじさんがもう起きて話し込んでいた。デリックおじさんはおじいさんに招かれて昨日の夜から二人でお酒を楽しんでいた。
「ああ、おはようエリス。いつもより早いな」
おじいさんがからかい混じりに指摘してくる。
僕はちょっと頬を膨らませてアオとシロに起こされたんだと訴えた。
楽しみすぎて目が冴えてしまった訳では無い。
「ああ、わかるよ。楽しみだもんな。俺もちょっと早起きしちゃったよ」
兄さんがアオを抱き上げて、シロの毛並みを撫で回す。
アオは機嫌が良さそうに揺れているし、シロの尻尾ははち切れんばかりだ。
「なるほど、アオもシロも楽しみか。隣国が従魔の入国禁止でなくて良かったな」
デリックおじさんが笑って言う。国と従魔の種類によっては入国禁止になる国もあるらしい。そういう国はジャイアントウルフはまず許されないだろうということだ。隣国が寛容で良かった。
しばし雑談していると、グレイスも起きてきた。
みんな一旦うちに集まる約束をしていたので、早めに朝食をとる。
そうしているとすぐに約束の時間になった。
みんな保護者を伴ってうちにやってきた。引率してくれるおじいさんに挨拶したかったらしい。
僕ら子供組ははしゃぎながら大人達の話が終わるのを待っていた。
いよいよ出発の時間になると、みんなで隣国行きの転移ポータルがある場所に向かう。建物は朝が早いからか商人で賑わっていた。
長い手続きを済ませてポータルをくぐると、そこは隣国だ。
ポータルのある建物を出ると僕らは景色の違いに驚いた。
「すごい、建物の形が全然違う!」
テディーの言葉に、僕は街並みを眺めながら感動した。この国は高い建物が多い。なんだか田舎から都会に来た気分だ。
「どうだ、ロージェ王国とはまるで違うだろう。もっと驚くことがあるぞ」
そう言うと、おじいさんは建物の裏に回る。僕らは慌てて後を追った。
そこには沢山の魔法車が止まっていた。魔法車は馬車のような形状の魔法道具の車の事で、高価なので貴族か裕福な商人しか持っていない。僕らはこんなに沢山の魔法車を初めて見た。
おじいさんが運転手と思われる人にお金を渡すと。運転手が扉を開けてくれる。
「ほら、これで別荘まで送ってもらえる。乗ってみなさい」
すごい、これってタクシーだったんだ。僕らは初めて乗る魔法車に大興奮だ。
「すっげー!一回乗ってみたかったんだよな!カッコイイ」
メルヴィンが真っ先に乗り込んで車内を見回している。
「魔法車が普通に走ってるのね。ロージェ王国じゃ有り得ないわ」
ナディアは感心しているようだ。
元々大人数を載せるために作られているんだろう、難なく全員乗ることが出来た。ただシロはみんなの足元に乗るしかなくて、ちょっと狭そうだ。
走り出すとみんな景色を眺めながら大はしゃぎだった。
「すごい!馬車と乗り心地が全然違うよ!」
テディーが窓にかじりつきながら歓声をあげると、みんな感動したように頷く。
兄さん含め大人組はみんな乗ったことがあるらしく、はしゃぐ僕らを微笑ましげに見ていた。
窓の外に見慣れないものを見つける度大騒ぎしていたら、運転手さんが気を利かせて街の説明をしてくれた。
僕らに合わせてゆっくりと街を走っていた魔法車だったが、しばらくして自然豊かな景色に変わった。
「さあ、左手をみてごらん」
おじいさんが言うと、僕らは言われた通り左手を見た。森の木々しかなくて首を傾げると、突然視界がひらけ真っ青な海が姿を見せた。
「海だ!」
前世の夢で見たそのままの姿に僕が感動していると、おじいさんと僕以外のみんなが口をあんぐりと開けていた。
「すっげー!何だこれ!?海ってこんなに広いのか!?」
いち早く復活したメルヴィンが窓にかじりついて海を眺める。
みんなも窓のそばに寄ってすごいすごいと釘付けになっている。
『すごいすごい!おっきいお風呂だ!早くあそびたいね!』
シロまで窓にかじりついて景色を眺めるものだから、車が傾かないか少し心配になった。
『凄いの!綺麗なの!』
アオはよく見たかったんだろう。変形して車の天井にぶら下がって眺めていた。
みんなの様子を見て僕もとてもワクワクした。今日は別荘についたら真っ先に海に行こう。
やがて魔法車は海沿いの別荘に到着する。僕らは車が止まるなり外に駆け出した。




