116.妖精とお泊まり
僕達は少しの間妖精の里で妖精達と遊んだ。今日はお泊まり会なんだと話すと妖精達に羨ましいと言われ、何故か十名ほどついてくることになってしまった。
今はその少ない枠を争った争奪戦の真っ最中だ。
「すまんの、里は娯楽が少ないゆえに、皆人間の領土に遊びに行きたいのじゃよ」
長が飛び回る妖精達を微笑ましげに見ながら言う。勝負は純粋な追いかけっこらしいけど、正直速すぎて勝敗がよく分からなかった。本気の妖精は凄い。
僕はクリアにお願いして妖精のおもてなしの用意をして欲しいという家あての手紙を届けてもらう。
クリアは妖精の自由さにため息をつきながら手紙を届けに飛んでくれた。
『凄いの、逆転優勝なの!』
『見事なコーナリングでしたね。ペース配分も完璧でした』
アオとモモはちゃんと妖精の動きが目で追えているらしい。
いつの間にか実況に回っている。シロも尻尾を振って楽しそうだ。
人間組はサッパリわからない勝敗に見ることを諦めていた。
特にテディーは今日は目を酷使しすぎて限界らしい。まだ妖精の里を出ることが許されていない子供の妖精達に髪を三つ編みにされて遊ばれている。
一緒に遊ばれているグレイスは段々可愛らしい髪型になっていて、花まで刺さっていた。
グレイスは嬉しそうだ。
そしてようやく一緒に行く妖精が決まると、僕らは里を後にする。
家に帰ると、家族総出で玄関で待ち構えていた。お母さんは特に妖精に会いたがっていたから待ちきれなかったんだろう。
姿を現した妖精達に感動しているようだった。
「一晩お世話になるわね。これはお礼の品よ」
一人の妖精が代表で野菜を渡すと、お母さんははしゃいで受け取っていた。
僕らはおじいさんに何があったのか報告する。女王花を見つけて妖精に買い取ってもらったと話すと驚いていた。妖精にとってそんなに価値のある花だとは思っていなかったようだ。
「そうか、しかし旅費ができて良かったではないか。隣国に行くのが楽しみじゃな」
おじいさんの言葉に僕らは喜んだ。妖精達は隣国と聞いて羨ましそうにしている。流石に国をまたぐことは長が許していないらしい。聞くと行方不明になった時、探すのが大変になるからだそうだ。
長の遠見の力にも限界範囲があるようだ。
妖精は隣国の話を聞きたがった。おじいさんは大人気だ。
僕らは日程をいつにしようか話し合う。待ちきれないから夏にある学園の一週間程度の休みに行こうと決めた。
テスト前休みだけど、僕らは普段から勉強しているからきっと大丈夫だ。
夕食の時間になると、シェフが苦心したのだろう。小さな妖精用の料理が運ばれてきた。妖精達は大はしゃぎで料理を食べている。
妖精達の食事はほぼ野菜で生で食べることが多いらしい。トロトロに煮込んだお肉は初めて食べたようでとても美味しそうに食べていた。
「お肉って固くて不味いと思っていたけど、煮込むとこんなに美味しくなるのね」
なるほど、妖精の歯じゃ硬いお肉は噛みきれないのか。繊維も大きいだろうしそれはそうか。
妖精達はシェフに調理法を聞いて、今度里でも作ってみるつもりのようだ。妖精はどうやって料理を作っているんだろう。次の妖精のお祭りには妖精の調理風景を見学させて貰おうかな。
食後には妖精の大好きな甘いお菓子が沢山出た。小さなケーキが沢山で、ナディアたちも嬉しそうだ。
妖精達と一緒に食べ比べをしてどれがいちばん美味しいか話し合っていた。アオもそれに加わっている。
妖精達は果物を使ったデザートが好みなようだ。シェフが次々に飛び出してくる感想をメモしていた。次に機会があったらもっと妖精好みのお菓子を作るつもりなんだろう。
「ねぇ、明日はどうする?女王花も見つけたし、休みにする?」
テディーの言葉に僕は考える。確かに今日は疲れたし、休みたいかもしれない。
「じゃあ、剣術の練習付き合ってやるよ。体格が近い練習相手がいた方がいいだろ?」
メルヴィンの提案に僕は喜んでお願いする。
早く実践で剣術を使えるようになりたかったから丁度いい。
「じゃあ、僕にも少し教えてよ。護身程度に使えるようになりたいからさ」
テディーも乗り気なようで僕らの明日の予定は決まった。
それを聞いていたお母さんがナディア達に提案する。
「私達は裁縫するのはどうかしら?せっかく妖精さんがいるんだし、お洋服を作りたいの」
妖精達は大喜びだ。前々から人間の洋服は可愛くて羨ましいと思っていたらしい。男の子の妖精もいたのでその子達はこっちに加わるようだ。
明日もきっと賑やかだろうな。グレイスも落ち込んではいないようだしお泊まり会は正解だったと思う。




