115.狂い花
そこは妖精の里からほど近い森の中にあった。
見渡す限りのリタの花畑に圧倒される。リタは強い雑草だ。森の中にあってもその生命力は並外れている。
「うっわ、目がチカチカするよ。こんなに花があると頭が痛くなりそう」
テディーが早速鑑定してみるも、花が多すぎて情報過多になっているらしい。
グレイスがなんとか負担を和らげようと集中力アップのまじないをかける。
焼け石に水みたいだ。
「何しているの?」
突然目の前に妖精が現れて、僕は驚いた。妖精はそんな僕を見てクスクスと笑う。他にも数人の妖精が姿を現した。
妖精は姿隠しの魔法が得意なんだっけ。偶然遊びに来ていたらしい。
「リタの女王花を探してるんだ。何か知らない?」
僕が言うと、妖精達は首を傾げる。僕は女王花について説明した。
「人間は面白い名前を付けるのね。それって狂い花の事でしょう?」
どうやら妖精の間では狂い花と呼ばれているようだ。
「あなた達も儀式をするつもりなの?」
妖精達が訝しげに聞いてくる。儀式って何の事だろう。
「なんの儀式もしないよ、ただ珍しいから高く売れるんだ」
「そうなの?なんて勿体ない。あんなに力を持った花は他に無いのに」
妖精達は人間の花の使い方に不満があるようだった。妖精達にとっては豊穣の儀式に使える力を持った花らしい。
「ここにあった女王花は今年の夏のお祭りの時に使うからあげられないわ。私達も探すのに苦労したのよ。他をあたってくれる?」
僕らは顔を見合わせると頷いた。妖精にとって大切な花なら仕方ない。他をあたることにしよう。
「その代わり探すのを手伝ってあげるわ」
妖精達は楽しそうに転移ポータルに戻る僕らについてくる。
「里から離れて大丈夫なの?」
ナディアが心配そうに聞くと、よく転移ポータルに乗って遠出して遊ぶのだと返ってきた。姿を消せるから人間と一緒に乗ってもバレないらしい。知らなかった。
妖精も一緒に転移ポータルに乗って次の目的地を目指す。今度は少し離れたところだ。この国の中では最大のリタの群生地らしいから、きっと女王花も見つかるだろう。
「わー、大きい花畑!」
花畑に着くと、妖精達は大喜びで飛んでゆく。真っ白な花畑で遊ぶ妖精の姿は神秘的で綺麗だった。
「さて、気合い入れて探そうか!」
メルヴィンが屈んで小さな花一つ一つを見比べている。正直気が滅入りそうだ。
「待って、ありそうな範囲くらいは絞れるわ。狂い花はね、周囲の花の生命力を少しずつ吸い取って、自分のものにするの。そして自分の力は隠してしまう。花が弱っている範囲を探せばいいのよ」
そう言うと妖精は周囲を飛び回り始めた。
「ここから……向こうのあたりまでね。この範囲の中にあると思うわ」
妖精が指した場所は結構な範囲だった。でも闇雲に探そうと思っていた頃よりだいぶマシだ。
僕らはその範囲を目を皿のようにして探した。時々スライムが飛び出してくるのでビックリする。
アオとモモは一緒に探してくれているが、シロは大きすぎて花畑には入れない。近くで獲物を狩ってきてと言うと、クリアと一緒に喜んで駆けて行った。
妖精達も飛びながら探してくれる。
二時間ほど経った頃、それは見つかった。
「あー!やっと見つけた」
テディーが一輪の花を掴んで涙目になっていた。
僕らはかがみ過ぎて痛くなった腰を無理やりおこしてテディーの元へ駆けつける。確かに、微妙な違いだけど他の花とは違う。僕らは大喜びで歓声を上げた。
「やっとだ、もう今日は何も鑑定したくない……頭が焼けそうだよ」
テディーが花畑に倒れ込む。本当にお疲れ様だ。
「ねえねえ、この花私達に売ってくれないかしら。里に戻れば人間の金貨と交換できるわ。あなた達は花でなくお金が欲しいのでしょう?」
妖精が僕らの周りを飛び回りながら口々に懇願してくる。最初からそれが目的だったみたいだ。
「こんなに力を持った狂い花は久しぶりに見るわ。こんなお宝人間に使わせるなんて勿体ないもの」
僕らは目配せして頷いた。僕達は売り先はどこでも構わない。
女王花の株を掘り出して持ってきた鉢に植えると、僕らは妖精の里に向かった。
たくさんの妖精達に、久しぶりの来訪を歓迎される。
長に会うと、長は花を見て目の色を変えた。
「おお、なんと立派な狂い花じゃ!これで今年の祭りはより素晴らしいものになるだろう」
長は僕らに金貨とオマケにと小金貨を数枚くれた。妖精も人間のお金を持っているんだな。




