111.グレイスの気持ち
グレイスについて行くと、そこには見事な薔薇が咲きほこる庭園があった。きっと魔法で年中咲くようにしているんだろう。
「ここは曾おじい様が大切にしている庭園です。亡くなった娘の好きだった庭園だと前に話してくれました」
ならおばあちゃんも、ここに来たことがあるのかな?色々お祖父さんに聞きたい気持ちがあったけど、今はグレイスの方が大切だ。
みんなグレイスの様子をうかがっている。グレイスはここまでの道のりで落ち着いたのだろう、俯いて語り始めた。
「昔は必死だったんです。お母様に認めてもらいたくて。必死に魔法の練習をしていました。でも私の努力なんてお母様には関係なかった。私はまじない師だというだけでお母様にはどうでもいい存在だったんです」
グレイスが腕の中のモモを撫でる。
「学園に入って気付きました。お母様の考えはおかしいと……だからでしょうか、あんまり傷ついていないんです。ちょっとびっくりしましたけど……」
そう言って笑ったグレイスが、何か吹っ切れたような表情をしていたので、僕は少し安心した。
「お父様の始めた事業が、お母様の実家の助けがなくても問題ないくらい安定したので、お父様はお母様と離縁するつもりみたいです。それを聞いて、なんだかホッとしたんです。悪い子ですよね」
そんな事はないと思う。グレイスは認めて貰えなくてずっと辛かったんだろう。
グレイスの話を聞いたティアラちゃんは罪悪感を抱いたのかグレイスに小さく謝った。
ティアラちゃんは本当にお母さんの言う事を正しいと信じていたんだな。それでグレイスが傷ついているとは思いもしないで。前にそう言っていたように自分は特別だと思っていたんだろう。
グレイスはティアラちゃんに首を振った。僕がグレイスの立場ならティアラちゃんの言動に腹を立てていたと思うけど、グレイスはティアラちゃんに関してはずっと擁護してきた。きっとずっと一緒に居た姉妹にしかわからない何かがあるんだろうな。
ティアラちゃんは僕らにも謝罪してくれた。相変わらずクリアに怯えていたけれど、前の時とは大違いだ。
学園に戻ったら、クラスのみんなにも謝罪すると言ってる。短期間で人は変わるものだな。
「そういや、グレイスのお母さんのジョブって何なんだ?」
メルヴィンが興味本位で聞くと、グレイスは難しい顔をした。
「それが、知らないんです。自分のジョブを恥だと思っているみたいで、聞くととても怒って……」
自分のジョブを恥と感じるのに、ジョブ至上主義者だったのか。ジョブに関して何か言われて育ったのかな。だから逆に固執しているのかもしれない。
ティアラちゃんも首を傾げている。知らないんだろう。
「そう考えると、お母様も可哀想な人なのかもしれませんね……」
グレイスはため息をついて言った。
僕らはしばらく庭園を眺めた。そして次第にいつもの調子を取り戻していく。
「そういえば、驚きました。家に大魔女様との縁があったなんて。通りで書庫に大魔女様のことを書いた本が多いわけですね」
グレイスがそう言って僕を見た。
「おばあちゃんのことを書いた本がそんなにあるの?僕も見てみたいな」
そう言うと、書庫へ案内してくれるという。ティアラちゃんが不思議そうにしていたので、大魔女の弟子なのだと言うと驚かれた。
「だからこんなにすごい従魔ばっかりなのね」
ティアラちゃんは恐る恐るシロ達の方を見る。アオがティアラちゃんの目が腫れているのを見て回復魔法をかけた。ティアラちゃんは驚いて悲鳴をあげていた。
僕達はそれに笑いながら書庫へと向かう。
書庫は一際大きな建物だった。グレイスに案内されておばあちゃんの事が書かれた本が収められたスペースに行くと、そこにはおばあちゃん以外の七賢者の事が書かれた本も沢山あった。見たことが無い本も沢山あって僕は目移りしてしまう。
「読みたい本があったら持っていっても大丈夫ですよ。読み終わったら学校で返してください」
グレイスがそう言うので、僕は本棚に齧り付いて本を吟味した。
ナディア達も気になったらしく、それぞれパラパラ本を捲っている。
「本を元に英雄の跡を追うのも楽しそうだね」
テディーの言葉にみんな頷いている。
「妖精の里もエルフの里も楽しかったもんな。他の種族の話も聞いてみたいよな」
メルヴィンはデリックおじさんについて書かれた本を見ながら言った。メルヴィンにとって同じ身体強化を得意とするデリックおじさんが一番の英雄なんだろう。
ティアラちゃんはここにある本を読んだことがないらしく、七賢者についてグレイスに質問していた。
本に夢中になっていると、お父さんと、グレイスのお祖父さんが書庫にやって来た。僕達を探していたらしい。
お祖父さんはグレイスの顔を見て安堵していた。
あまり落ち込んでいないとわかったのだろう。
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