109.捜索
そこに居たのは私服のフランク先輩とフローレンス先輩だった。
そっか、二人はラフィン領の騎士になったんだっけ。手紙を読んだお父さんが僕らにつけてくれたのかな?
『父さんが援軍を送ってくれたぞ』
二人と一緒に居たクリアが僕の元に戻ってくる。
「久しぶりだな。シロが誘拐事件の被害者の足取りを追えるかもしれないと聞いて、一緒に行動することになったんだ。よろしくたのむ」
フランク先輩が僕らに説明すると、フローレンス先輩が優しく笑って言った。
「私達の他にも私服の騎士達が周りにいるから、安心してね。なにかあったら必ず守るわ」
僕らは顔を見合せてから頷いた。とても心強い。
早速シロに匂いを追ってもらうと、ティアラちゃんは随分色々街を歩き回ったようだった。
スイーツショップやファンシーショップの前で何度もシロが立ち止まる。
やがてあまり治安の良くない通りに差し掛かった。ティアラちゃんは街にも危険な場所があると知らなかったのかもしれない。
路地裏でシロが立ち止まる。クンクン匂いを嗅ぐと、首を傾げた。
『どこかで嗅いだことのある匂いがする。……誰の匂いだっけ?そいつらがティアラちゃんと一緒にいたみたいだよ』
シロの言葉に全員首を傾げる。誘拐犯は顔見知りなんだろうか?
「人数はわかるか?」
フランク先輩の質問にシロは三人と答えた。
『薬の匂いもするよ、睡眠薬みたいな……何かに入れて運んだのかな?ティアラちゃんの匂いが薄くなってる』
そんな事までわかるなんて、シロの鼻はすごいな。みんな感心してシロの動向を見守っている。
シロはそのまま路地裏を奥の方に進んで行った。
しばらく歩くと、そこには廃屋のような建物があった。
『あそこに居るかも』
シロが鼻をクンクンさせながら廃屋を指した。
グレイスが今にも駆け出しそうにしている。ナディアが肩を掴んで止めた。
フランク先輩が何か手でサインのようなものを出すと、周りにいた騎士達が建物を取り囲んだ。
「まずは人質の安全を確保しないとな。フローレンス、頼めるか?」
フローレンス先輩は頷くと、建物を囲むように巨大な魔法陣を描いた。眠りの魔法陣だ。こんな規模で使えるなんてすごいな。
魔法が発動すると、騎士が慎重に中に入っていった。少しすると出てきて合図を送ってくれる。
僕らは廃屋に足を踏み入れた。すると、中には眠った状態で縛られた誘拐犯と思われる三人が居た。
その顔を見て僕達はあっと声をあげる。
「こいつ、前に冒険者ギルドで絡んできた奴らじゃないか?素行不良で銀級に上がれなかった……」
メルヴィンが驚愕したような顔で言った。
「あの後堕ちるところまで堕ちたみたいだね」
テディーが哀れみに満ちた目で三人を見つめている。ふと何かに気づいたように彼らの懐を漁ると、違法な魔法道具が出てきた。
犯罪者御用達の、探索系の魔法を無効化する魔法道具だ。おばあちゃんに見せてもらったことがある。ずっと誘拐犯が捕まらなかったのはこれのせいだろう。
今回はシロの鼻というアナログな方法で探したから意味が無かったみたいだ。
犯人達を通り越して奥の部屋に行くと、フローレンス先輩がティアラちゃんにかけられた縄を解いていた。
グレイスが走ってティアラちゃんの元に行く。その顔には涙が伝っていた。
フローレンス先輩が、ティアラちゃんにかけられた眠りの魔法を解除する。
グレイスはティアラちゃんを抱きしめて泣いていた。
目覚めたティアラちゃんはグレイスを見て目を丸くする。
「良かった、ティアラが無事で、本当に良かった!」
次第に自分の置かれていた状況を思い出したのだろう、グレイスと同じように涙を流し始めた。
「なんで、来たの?私、グレイスにずっと酷いこと言ってたのに……!」
しゃくりあげながら、ティアラちゃんはグレイスに言う。学園に通うようになって自分の言動がどれほど周りを傷つけてきたか理解したんだろう。でも長年の習慣は中々直せなかった。そんな矢先の出来事だったのかもしれない。
「そんなの関係ない、心配したんだよ」
グレイスの言葉にティアラちゃんは火が着いたように泣き出した。
グレイスはティアラちゃんは悪い子じゃないと言っていた。ただ素直に母親の言葉を鵜呑みにしていただけだったんだろう。
これからきっとティアラちゃんは変われるんじゃないかな?
何にせよ、無事でよかった。
二人が泣き止んだ頃、僕らは一緒にグレイスの家に戻ることにした。
途中で父さんが来て、報告のためにも一緒に行ってくれるという。
屋敷に入ると、グレイスの両親が待っていた。お母さんはティアラちゃんの姿を見ると泣きながら抱きしめる。
感動の光景を横目に、僕らは伯爵に応接室に案内された。そこには他に一人、年配の男性がいた。
「ひいお爺様」
そこに居たのはグレイスの曽祖父らしい。なぜか僕の顔をじっと見ている。僕、何かしたかな?




