108.誘拐
その日は授業に集中できなかった。グレイスのことが心配だったからだ。モモも珍しく僕の机の上で授業を聞いている。
放課後、グレイスの家に行ってみようかな。コービン伯爵のお屋敷と言えば場所は分かるだろう。
みんなも同じことを考えていたようで、授業が終わるとみんなでグレイスの家に行こうということになった。
学園を出ようとすると、学園長に呼び止められる。
「グレイスさんのお家に行くのですね。でしたらこれをグレイスさんのお父様に渡していただけますか?今日はティアラさんも学園を欠席しているようなのです」
二人揃って欠席なんて、本当に何があったんだろう。心配だ。
僕らは学園長の手紙を受け取ると、転移ポータルを使ってグレイスの家に向かう。
そこは大きなお屋敷だった。グレイス曰くコービン伯爵家は公にも七賢者寄りの家らしい。
僕が養子になったラフィン家と同じ派閥だ。何でも昔王家にひどい仕打ちを受けたようで、和解することは絶対に無いと公言しているらしかった。
理由はグレイスはまだ子供だからと教わっていないらしい。グレイスの曽祖父母と祖父が、未だ怒り狂うような何かが昔にあった様だった。だから特に反王家の思想が強い家だと聞いている。
僕らは扉の前にいた警備の人に、グレイスの友人で、伯爵に学園長からの手紙を届けに来たと説明する。
すると応接室に通された。従魔も一緒でいいと言うのでお言葉に甘えさせてもらう。ナディアとテディーが豪華な応接室の様子に縮こまってしまっている。
出されたお茶を飲みながら暫くすると、突然扉が開いてグレイスが駆け込んできた。その目はずっと泣いていたかのように真っ赤に腫れていた。ナディアが驚いてグレイスの傍に行くと、グレイスはしゃくりあげながら泣き出してしまった。
ナディアがハンカチで涙を拭ってあげながら何があったのか聞き出す。
グレイスの足元に、モモが慰めるように前足をかけていた。
アオはグレイスに鎮静化の魔法を掛けている。
少しするとグレイスは落ち着いたようで、ポツポツと話し出す。
「昨日、家に帰っても、ティアラは居なくて……夜になっても帰ってこなくて……遅くに身代金要求の手紙が届いたんです」
誘拐犯!おじいさんが言っていた最近増えているという事件か。
学園を抜け出して街に出た所を誘拐されたのだろう。
「軍を動かせば、ティアラの命はないという内容が書いてありました。でも、お父様が密かにエリスのお父様に連絡をして、目立たないよう捜索してくれるよう頼んだのです。それを知ったお母様が怒って、ずっと二人で喧嘩してて……」
そこまで話すとグレイスはまた泣き出した。
「身代金の受け渡しは、今日の夜で……なんとか用意できたけど……お父様もお母様も、喧嘩ばかり、で……どうしたらいいのか、わからなくて……」
それは辛かっただろう。ただでさえ誘拐なんて怖いことが起きているのに、お父さんもお母さんも喧嘩していたらきっと恐怖心が膨らむ。
僕らはしばらくグレイスをなだめ続けた。元々泣き虫なグレイスだけど、今日の姿は特に痛々しかった。
『グレイスの妹を探せばいいの?僕、きっと匂いで探せるよ』
シロが唐突に言った。僕は驚いてシロに詰め寄る。
『魔物とお花の匂いが凄いから、覚えてるよ。すごく強いから一日くらいなら匂いも消えないと思う』
魔物とお花?一体なんだろう?シロの言葉を通訳すると、テディーが手を叩いた。
「そっか、香水だ!ティアラちゃんがつけてた香水、多分魔物の放つフェロモンを原料にしてるんだよ!フェロモンの匂いは強いから、シロなら確かに嗅ぎ分けられるかもしれないよ!」
それなら急いで学園に戻ってティアラちゃんの足取りを追わないと。
「本当ですか!ティアラの居場所が分かるんですか、シロちゃん!お願いします、ティアラを探してください!」
グレイスが必死にシロに縋り付く。
『まかせて!絶対見つけてみせるよ!』
シロはやる気満々だ。僕は父さんへ手紙を書いて、クリアの足に括り付けて届けてもらう。それからみんなで一旦学園へと戻る事にした。
希望が見えたグレイスは泣き止んで、一緒についてきている。アオが目の腫れに回復魔法をかけてあげていた。
モモはグレイスの腕の中でグレイスを心配そうに見ている。
学園の門の前に戻ると、そこには予想外の人達が居た。
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