3-08 放課後は迷宮で青春を
西暦2×××年。世界に新しい娯楽が誕生した。
クリアしたところで願いが叶うわけでも無い。異世界に行けるわけでも無い。ゲームであってゲームではないわけが無いない。
これは、そんなただの娯楽『迷宮』に青春を捧げる、ただの学生達の物語。
「やっちまったやっちまったやっちまったやっちまったあああああああああああああああああああ」
叫び散らかしながら薄暗い洞窟の中を走り抜ける。鎧を止めてある留め金がガチャガチャと喧しい。
くっそぉ。罠だったかあ。
ちょーっとだけ奥まったところにあった宝箱。
いつもならもう少し警戒していたかもしれないが、今日はテスト明け。二週間ぶりの迷宮。そんな理由から少々ハイになっていたテンションが、油断を招いた。
宝箱を開けた途端、中から湧き出る魔物共。
俺はすぐに後ろに飛びながら手持ちの爆弾を奴らに叩きつけ、熱風を背にしながら逃走を開始し現在に至るというわけだ。
「あーあーうじゃうじゃと!」
軽く後ろに目を向けると、爆弾で身体を欠損した魔物の群れが、雄叫びを上げながら涎を撒き散らして俺に迫ってくる。
二足歩行の牛や馬。飛んでる蛇に、走る鳥。豚や羊もでっかい斧を担いで群れていた。
「ってうお!?」
矢が飛んできやがった!
よく見りゃ後ろの方で飛んでるやつら、小天狗か。
アイツらだけなら問題ねんだが、こうなってくるとキツいな。
とりあえずあと少し走れば広間がある。そこで迎え撃つしかねぇ。
俺はもう一度、いくつかの爆弾を後ろ手に投げながら目的地へ。
手持ちの爆弾はあと二個。
減らしに使うか、殲滅で使うか。
迷ってるうちに光が見える。俺はさらに加速し、その光へ飛び込んだ。
体育館ほどの広い空間で、くるりと地面を転がりながら、腰から小刀を抜いて構える。
「さあ来い」
「あら佐久間くん」
背中から聞こえるウィスパーボイスに思わず振り返りそうになった。
「…………ぶ、部長?」
「奇遇ね。もしかして佐久間くん、モンスタートラップを引いたのかしら?」
「ええまあ。とか言ってる間に来ました! すんませんけど、手伝ってもらえますか!?」
「いいわよ。ただごめんなさいね」
「え?」
「私もなのよ」
「え?」
その言葉に俺は振り向いてしまった。
黒長髪と顔以外を覆い隠す、いつもの黒いレザースーツを着た部長は、真っ黒な長槍を構えて逆側の入り口を睨め付けている。
「まさか……部長……?」
「ええ。つい開けてしまったわ。モンスタートラップ」
あんたもかよ! 奇遇ってそういう意味か!? というかアンタは寧ろワザとだろ!
「ってきたぁ!!」
「では楽しみましょうか」
そして俺と部長は互いが連れてきた魔物の群れを殲滅するべく、突撃した。
「しゃおらあ! ぜいやぁ!!」
「えいっ、やあっ、ほっやっとっ」
俺とは違い力が抜けきった声のまま、長槍をぶん回す部長は、魔物を塵芥に変えながら俺に話しかけてきた。
「ところでテストはどうだったの?」
「赤はギリ避けたと思いたいですねっ! うらっ!」
「へぇ。ちなみに私は赤点確実よ」
「どうせ! また白紙、だろ!」
「名前は書いたわよ。残念でした」
ちいっ!
二週間ぶりの部長に苛立ちつつ、彼女に向かって爆弾を投げる。
「ありがと」
長槍の上を転がしながら、ヒョイっと魔物の方に受け流した部長は、ニコリともせずお礼を言った。
くっ。
いらんことに使ってしまった。
「ところで佐久間くん」
「な、んっ! すか!」
「もうすぐ夏休みだけれど、予定はあるのかしら」
「もちろん! 迷宮でっす! 新作迷宮も発生させるって話です、し!」
「ああ。ローザンヌの新作ね。つまり予定は無いというわけね」
「いやだから」
「よかったわ。私の知り合いに迷宮主の資格を取った人がいてね。その人が造った迷宮のテストプレイをしないかって誘われているのよ」
「へえ! それはそれは!」
「というわけで、夏休みの迷宮部はハワイに行きます」
「いってら! しゃい!」
「あなたも行くのよ」
「お断り、しまっ!」
「いいわよ。その代わりギリギリ赤点回避のテストが無効になるだけだから」
「行きますよ! ハワイ! ってうおわひっ!?」
ミノのやつら斧ぶん投げて来やがった!
くそが!
片手でポーチから球を二個取り出して、魔物共の足元にぶん投げる。
遠心力で球の蓋が開くとワイヤーが伸びて、魔物の脚を絡める。
将棋倒しに倒れまくった魔物の背を蹴り、後ろで矢を放つ飛行種に接敵し、まとめて切り刻むと、その勢いのまま壁を天井に向かって駆け上がった。
「部長!」
「そーい」
間の抜けた声と共に、長槍のギミックを発動した部長は、刃先をバチバチと輝かせながら広間の真ん中でぶん回した。
青白い刃が一気に伸びて広間中にいた魔物を真っ二つに切りまくる。
それを俺は天井の凸凹にしがみつきながら見下ろした。
「さてと? あと少しかいな?」
上がる息を息吹で無理矢理沈め、二つの入り口を睨め付ける。
さっきまでは雪崩のように飛び込んできていた魔物は、予想通り数えるほどに。
「佐久間くん」
「りょうかい!」
俺は手持ちの爆弾を片方の入り口に投げながら、もう片方の入り口に飛び降りた。
爆音を背に小刀を振り回しながら、五本の小さい杭を魔物達を囲むよう大きく円形に刺していく。
そして最後の六本目の杭を入り口に刺す。
「やります!」
「はーい」
俺は杭のギミックを発動しながら部長の方に走り去る。
部長も同じく、数本の杭を、俺たちを囲うように投げると薄緑色のバリアが張られ、衝撃に備える。
程なく俺の設置した杭がスパークし始める。青白い光が杭同士を結んで円、そしてドーム型へと形を変え、爆発的な音と光が空間に広がった。
十数秒ほどで爆音が収まると、プシュンッとバリアが消えた。
「あー……終わりましたかね」
「ええ。あ」
「ほぺ」
俺は部長の槍に刺された。
刺されたところから一気にポリゴンが広がり上半身が落ちる。
「ごめんなさいね」
俺は落ちていく視界の端で、黒い塵になった魔物を捉えながら…………。
*****
「部長!!!!」
「てへぺろ」
部室で待っていた俺は、戻ってきた部長を怒鳴りつけた。
「仕方が無かったのよ。それに撃ち漏らしたのはあなたなのよ? 私はその尻拭いと罰を与えたまでよ」
「それ今考えた言い訳ですよね!?」
「残念。あなたが散ってから少しして思いついたの」
しばらく帰って来ねーと思っていたら、この女ちゃっかり中層行ってやがったな!
不貞腐れた様に机に突っ伏した俺は、足で椅子を部長の方に軽く蹴った。
「ところで佐久間くん」
「なんすかー?」
「私と出会ってもう三ヶ月ほど経過しているわけなのだけれど」
「あーもうそんな経ちますか」
思えば出会いのきっかけは些細なことだった。
あれはこの学園に入学して二週間後のこと。
俺はその日の事を思い出そうとして、
「佐久間くんったら。泣きべそかきながら、ママーッママーッて泣いたいたわね。懐かしいわ」
「泣いてもいなけりゃ母親を求めたこともねーんですけど」
「そうだったかしら。私ももう年ね。すっかり忘れてしまったわ」
「婆さんですかあんたは」
気がつけば俺は床に倒れていた。
「誰がお婆ちゃんよ」
座った目が俺を見下ろしている。
「先に言ったのは部ちょ」
目の前が真っ暗になった。





