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3-24 モグモグ★ごっくん

 トントントントン、ジュージュージュー。

 コショーをパッパ!


『先日◯◯区で発見された女性の遺体ですが、捜査関係者の情報によりますと両腕が切断されていたことがわかりました。もう一度事件の概要をまとめてみましょう』


 おいしくなぁれ! おいしくなぁれ!


『女性は◯◯区在住の小潟真涌美さん、三十二歳。◯◯区のビルの屋上から飛び降り死亡したものとみられます』

 

 じょーずに焼けた?


『小潟さんは人気小説投稿サイトで自作の小説を投稿しており、当時そのビルで小潟さんを含む数十人の知人達と会食を……』


 さあ、おはしをもって! いただきます!

 もぐもぐ。


『犯人は何をするために被害者の腕を切り取り、持ち去ったのでしょうか? 専門家の話では……』


 ごっくん!


「あー……。どんな肉に焼肉のタレかけても、焼肉のタレの味になるんだな」


 もう一口、モグモグ★ごっくん!

 神絵師の腕を喰うと絵が上手くなる。ならば神小説家の腕を食うと、小説は上手くなんのか?




「みんなー! 今日は集まってくれてありかとにゃん!」


 地獄のオフ会。それが一番最初の感想。

 猫耳巫女服の女の鼻声やら、物理的猫真似やら。その横に無駄に丈が短いスカート履いたシスターと、よく分からん黒っぽいテカテカの布面積けちってる女の二人とか。中身のない挨拶の語尾全てにゃんとか。知らん子供の学芸会の動画だって、まだ見所があるだろ。

 そう毒付きながら口の中にグラスの中身を流し込むが、これもまた地獄。

 何か高そうな場所にある居酒屋だってのに、出てくるもん全部水っぽい。俺が飲んでるの、白い色したただの水。マジ最悪だろ? 俺の方がまだ濃いの出せるぞ。人間より終わってるサーバーあるか?

 全てにおいて、地獄のオフ会。

 が、こんな地獄の果てに来た理由が俺にはある。


「今日は待ちに待った童話創作クラスタの決起集会っ! もう目の前に控えてる小説コンの荒波にみーんなで乗り切ろうにゃー!」


 いい歳こいた大人たちがニャーと声を揃えているインスタントな地獄を見てると、ついつい理由が忘れがちになってしまうが俺はここに人を探しに来たのだ。

 この俺、この童話界隈の新帝王になる男、『荊棘苺姫』様が直々にな。

 俺の名前、強そうだろ? 薔薇の荊棘に、食い物の中で一番好きなケーキに乗ってる苺に、苗字の姫氏原から取った姫。我ながらどの文字を取っても強そうで、最強にふさわしい名前だと思う。息してるだけでセンスが光るんだよ。天才だからな、俺は。ランキングって言うか、かっこよく言えば序列百五十ぐらいで燻っていい男じゃないわけ。

 そんな俺の探し相手は、頭が高いことに俺より序列が上の現在童話界隈序列一位、『紅槻夜未』って奴。

 性別も顔も知らねぇ。名前の読み方も知らん。だが、書いてる小説だけは知ってる。正直、童話とジャンル付けしていいのか微妙なラインだと思うが、それも悪いことじゃない。童話と言っても一口に子供向けの短編だけじゃない。特に日本の童話という単語には大正ぐらいまで昔話の意味を持っていたぐらいだ。本人が童話と言うなら、童話だと俺は思う。

 少し大人向けの表現も入っているがメッセージ性も強く、キャラクターも個性的でコミカルなやり取りは中々面白い。

 勿論、俺の次にな。

 この小説コンに参加するのに当たり、俺のライバルに相応しい奴だ。と目を付けていた矢先、紅規夜未から俺のSNSにメッセージが送られてきた。


『いつも荊棘苺姫さんの作品を楽しく読んでます! ず〜〜〜っと前からファンでした。良かったら、私が主催する童話クラスタだけのグループで作品の読み合いしませんか? 堅苦しい会ではないのでお気軽に参加してくださいね』

 

 俺の作品に目を付けてるとか、中々見所あるじゃん、こうなんとかよるみ。読み方知らんから脳内では全部これ。

 SNSで仲良くなるのは良くないって中学校の全校集会で言われまくってたから、俺は返事を返さず直接返事を返すためにこのオフ会に参加したわけだ。名前の後ろに@大型童話クラスタ決起集会主催って書いてあったから、割と直ぐに申し込みしたんだよ。

 それにしても、ここにいるどいつが紅槻夜未なんだよ。周りを見渡しても老若男女そこそこの人数が集まってやがる。まず探す相手が女が男かもわからんのは痛い。

 取り敢えず、あの猫耳付いてる女はミミミミミって名前だってことしかわかんねェ。


「茨木さん」


 取り敢えず会って、読んでくれた礼と作品の感想を言わなきゃな。

 読み合いには勿論参加したいが……、俺が凄すぎるけどいいのか一度確認する必要がある。俺レベルの旋風は最早大型台風と変わらんだろうしな。


「茨木さんっ」


 聞き覚えのない地名を叫ばれながら、腕を叩かれる。


「あ?」


 何だ?


「茨木さんが頼んでたドリンク来たよ」


 隣を見れば、世間一般の顔がいいと分類される男が、世間一般のドリンクとは呼べないウォーターを持って俺に差し出してきた。

 顔がいい奴は俺が世界で三番目に嫌いな種族だ。俺が序列一位になったら一番最初に滅ぼしてやろう。


「茨木さん頼んだよね?」


 茨木?


「あっ。うっす」


 そういや、荊棘の漢字わかんなくて妥協で茨木って自分の名札に書いた気するわ。苺もわからんし詰んだんだよな。


「あざっす、サトーさん」


 イケメンの名札を見ると、サトーと書かれた。こいつも俺と一緒で漢字わかんなかった奴か? こんな名前の奴、この界隈にいないのを俺は知ってる。


「いいよいいよ。茨木さん、この会初参加? 同い年ぐらいの同性いないしね。参加してくれて嬉しいよ」

「そっすね」

「茨木さんは小説書いてるの?」

「はぁ、まあ」


 グイグイ来るなよ。


「そうなんだ。茨木さん下の名前何? 検索しても出てこないし、良かったら作品読みに行くから検索のために教えてもらっていい?」

「マジっすか。えっと、荊棘い……」

「神小説家であり、主催の紅規夜未ちゃんからのお言葉ですにゃん!」


 俺の言葉をかき消すように、スピーカーから声が聞こえてくる。

 主催?

 顔を上げると、シスター姿の女がマイクを持っている。あの女が、紅規夜未かっ!


「紅規です! 神とか、恥ずかしいなぁ。今日は皆、楽しんでね!」


 それだけ言うと、女は足早に部屋から出ようとしていた。


「荊棘苺姫?」

「すんませんっ! ちょっと俺外行かなきゃなんでっ!」


 イケメンを押し除けて、俺は女を追った。

 あの女が紅規夜未っ! 俺のライバル! 俺の話を読んで、ファンになってくれた奴!

 俺もアンタの童話読んだよっ! アンタの話で一番好きなお姫様の話をしたいっ! 聞きたいっ! 俺も……っ!


「ね、今日の参加者が全員ポイント入れてくれてもキツくない?」

「ミミちゃん、読み合い何人返事きてる?」

「十六人ぐらい。五十人ぐらいに送ったんだけどね」

「私もそれぐらいだよ。最近人釣れないよね」

「何に警戒してんだか。てか、小説読まれるわけないんだから大人しく参加しとけっての。ヤミも読んでないよね?」

「はは、他人の読むわけなくない? 一人も読む気ないし」


 俺は紅規夜未が部屋から離れた場所で、猫耳女と話している姿を見つけた。

 何の話をしてるんだ?

 読んで……。いや、そんなわけないだろ。俺の聞き間違いだ。だって、向こうが自分から言い出したんだぞ? 俺の作品読んでるって!


「あ、あのっ」


 自分の中の気持ちを払拭するために、声を出す。二人が振り向くと、一瞬ぎょっとして直ぐに笑顔に表情が変わった。


「どうしたの? トイレなら向こうだよ?」


 違うよな? 嘘だよな? そんなはずないよな?


「あ、あのっ。俺の小説を読んで……」


 読んでくれているって、ファンだって……。


「あ、茨木さんだぁ! 私、いつも茨木さんの童話読んでます! 大ファンなんですよ〜!」


 俺の言葉が最後まで終わっていないのに、この女は何処がで聞いた言葉を吐く。


「凄く素敵ですよねぇ! あ、良かったら読み合いしませんかぁ? 私、茨木さんの作品にポイント入れるので、小説コンに出してる私の作品にポイント、入れてくれません?」


 嘘。


「時間ある時に読んでくれれば、いいんで。私はもう読んだし、ポイント入れておきますねぇ」


 嘘の雑さにも、目の前が真っ白になる。

 茨木なんて奴、あのサイトの童話界隈に一人もいないことを俺は知ってる。




「あ、茨木さん。やっと戻ってきてくれた。あの、茨木さんって……」

「すんません、急用できたんで自分帰ります」


 俺はサトーの声を遮って、置いてあった自分の荷物を掴んだ。

 もうここに俺がいる意味はない。


「え? あ、そうなの? 突然だね」

「さよなら」


 俺はそのまま店を出る。会費はどうせ事前に集めてたし、文句はないだろ。これで八千円とか、まあまあの地獄だな。

 嗚呼、くだらない。あゝ、とてもくだらない。

 ビルの階段を下るごとに捨てたはずの、期待の残骸みたいな気持ちが溢れ出してくる。

 何だよ。読んだも、ファンも全部嘘かよ。ポイント入れてもらうための全部嘘だったのかよ。

 何だよ。読んでないのに、ポイント入れてやる? 読まれもしない作品に? そんなもん、書いても書かなくても同じじゃねぇか!

 俺の作品に価値がないって言いたいのかよっ!

 ふざけやがって……っ!

 ここでも俺の童話は馬鹿にされんのかよっ! 

 読んでます、ファンです? それを言われて喜ばない奴いんのかよっ! 自分だったら傷つかないつもりなのかよっ!

 悔しい。言葉にできないほどに、悔しいっ!

 あんな奴らより上手くなりたい。読まれたいっ。上に行きたいっ!


「クソ……っ」


 絵師はいいよな。神絵師の腕食えばいいんだからさ。小説書いてるやつは何したらいいんだよ。

 むしゃくしゃした気持ちを、何かにぶつけたい衝動に駆られ、ビルの間の細い道に目を向ける。

 蹴り飛ばせるゴミ箱があれば……。


「あ?」


 しかし、そこで俺が見つけたのはゴミ箱じゃなかった。

 神小説家と言われてた女の死体だった。

 ねぇ、神絵師の腕を喰うと絵が上手くなる。ならば神小説家の腕を食うと、小説は上手くなんのか?

 ねぇ、どうなのさ。




 俺はその問いかけの答えに、ため息を吐く。

 結局、得られるものはたった3PV増えたことと……。


『お前が殺したの、知ってるからな』


 勘違い野郎の妄想が、初めてコメ欄に書かれた文字になった思い出の二つだけだった。

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