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3-15 僕と彼女のティーバック

「嘘ね。そんなのあるわけないわよ」

「本当だよ。その証拠に、雫がいま穿いてるパンツ、言うよ」


僕の問いかけに、幼馴染の雫は狼狽する。


「あ、当ててみなさいよ」

「紺色のフリルがついたティーバックだ!」

「!? なんでッ」


僕の力を目の当たりにして、雫がスカートを押さえる。


「覗く必要もない。僕には”見える”からね」

「~~ッ!」


中学三年生の最後の夏、僕は雫に秘密を話した。

恋人になって、秘密にするのは忍びなかったからだ。


「もう知らない! 二度と話しかけないで!」


 目の前にいた女の子が、怒りを露わにして去っていく。猫だったら毛が逆立っていてもおかしくない。それだけのことを僕はしたのだと思う。


 毎回、僕は学ばない。



 僕には一つの異能がある。

 この現代日本でそんなことをハッキリ伝えれば、頭のおかしいやつだとか、病院に行ったほうがいいとか、黄色の救急車を呼ばれそうにもなるだろう。

 たった一人を除いて誰にも明かしたことがないこの"秘密"を、僕は生涯守り抜く。


「はぁ。また振られた。ルックスはいいって褒められるから、付き合えはするんだけど」


「中身が最低じゃ仕方ないわね」


「うおっ」


 後ろから突然声が聞こえて、驚きのあまり声を上げた。


「何よ」


「あ! いや、うん。……雫」


 一ノ瀬雫いちのせしずく。僕の初めての彼女だった人であり、幼馴染であり、唯一、僕の異能を知る者だ。


 そう、たった一人――雫には明かしてしまっていた。


「まだアレ、治っていないの?」


「いやいや、治るとかじゃないし。僕の力で当てて見せようか?」


「好きにすれば。もう隼人に興味なんてないから」


「……わかったよ。じゃあちょっとだけ」


 僕は両目に力を込めた。どういう力を込めているのかは分からないけれど、とにかく力を込めた。

 だんだん目が充血し、鼻血が出そうになる。


「――見えたッ!」


 雫がびくりと肩を振るわせる。


「水色で紐で結ぶタイプの透けないティーバック! 今日もえっちじゃん!」


「えっちじゃないわよ、楽なのよこれ。男性用もあるし、隼人もきっと気にいるわよ」


「え? 穿いてないわけないじゃん。見る?」


「!? み、見ないわよ! 何考えてんのよ! こらッ、ズボン下げるなッ!」


 躊躇いなく体育館の倉庫で体操服のズボンを下げると、雫が顔を逸らす。でも、それは少しばかり遅かった。


「見えちゃったじゃない! 本気で穿いてるの!? あり得ないわ!」


「それは男性差別だよ。男だって、ティーバックを穿いていいんだ」


「〜〜〜〜っ! もう知らない! どうせさっきの彼女にも、『今日はティーバックじゃないんだね』とか言って振られたんでしょッ!」


「よく分かってるね。さすが幼馴染兼元カノ」


 顔を真っ赤にして去っていく雫。

 大声に反応したのか、元々不安定だった台車に盛られたバスケットボールが一つ、転がった。

 キャッチしてリリースする。

 体育の授業は終わり、あとは着替えるだけ。


「憂鬱だ」


 彼女には振られて、元カノにも怒られて、散々な日だ。

 男子用更衣室にはもう誰もいないだろうか?

 僕はティーバックが好きだし、見るのも見せるのも好きだけど――男のものを見る趣味も男に見せる趣味もない。

 一度だけ見せたことがある親友には中学時代、めちゃくちゃ笑われた。クラスで言いふらされ、バカにされた。

 そいつとは絶交したけれど、それがトラウマで、人前で着替えられないのだ。


   *   *   *


 僕はティーバックが大好きだ。

 お尻の形がもろに出る形、ものによっては肌が見える透け具合。

 ティーバックにもフリルが付いたものや、透けるものや透けないもの、布面積が比較的多いものもあるし、カラーバリエーションも豊富だ。

 数多あるパンティーの中からティーバックを選び、その中からさらに選りすぐったモノを穿いている。――人それぞれ選ぶものが違って、とても見応えがある。

 何より、ティーバックで一番素晴らしいことと言えば、どれだけパツパツのスカートやズボンを穿いていても、パンツの形が浮かび上がらないことだろう。女子にとってもメリットだし、僕としても「もしかしたらティーバックかもしれない」と思えるからメリットなのだ。


 今日振られたばかりの元カノがよく穿いていたのは、水色で比較的透けるタイプの、布面積が極小さいものだ。どうやら一枚しか持っていなかった。僕が見たのはその一着だけだから、間違いないと思う。


「もっとティーバック穿いてくれればいいのに……」


 ぼやいていると、雫がテニス部の活動をしていた。

 いまは放課後。僕は教室でだらけている。

 放課後にはこうして、教室から様々な女子のパンツ事情――もといティーバック事情を調べているのだ。


「お、あの子ティーバックじゃん!」


 ポニーテールの髪がふわりと風に揺れる。

 穿いているのは白のティーバックで、フリルがついた可愛らしいもの。――そして、紐で結ぶタイプだ。

 彼女はどうやら、雫と同じテニス部の活動をしていた。


「雫に聞いて見よ」


 すぐにスマートフォンでメッセージを送信する。

 もちろん、返事は来ない。まだ部活中だからね、仕方ないね。


 今日はもう帰って、明日にしよう。



 次の日。

 僕は雫に呼び出された。


「あのね、私だって暇じゃないの。紹介してっていうけど、朱音さんは先輩だからね! セ・ン・パ・イ! 隼人のこと紹介して、変態だってわかったら私の立場がなくなるわよ!」


 腕を組み、僕に説教し始めた雫の今日のパンツは――、


「見えたッ!」


「!? 見るなッ!」


 顔を真っ赤にして股間を手で隠す。

 けれど、もう遅い。というか、そんなの関係ない。


「今日もティーバックか……さては雫、相当なティーバックファンでしょ」


「そんなんじゃないし」


 いつもならヒートアップして声を荒げるのに、今日は違った。

 顔を赤らめて、ぼそりと聞こえるか聞こえないかの声だった。でも、ちゃんと聞き取れた。


「じゃあどんなんなの」


「べっつに。関係ないわよ隼人には」


「まぁいいけど――それより、紹介してくれるの? してくれないの? してくれなかったら……直接行くしかないな」


「行くなッ! 絶対ダメ! わ、私がティーバック穿くからッ!」


「え、でももう見慣れたし……」


 雫のティーバックのバリエーションは意外と豊富だ。僕のことを変態呼ばわりする割には、ティーバックばかり穿いている。


 月曜日は水色の透け具合の高い普通のティーバック。

 火曜日は紺色で特に飾り気がなく透けてもいないティーバック。

 水曜日は紺色で透けそうで透けないフリルのついたティーバック。

 木曜日は水色で紐で結ぶタイプの透けないティーバック。

 金曜日は青色で透け透けフリルのティーバックだ。


 土曜日と日曜日はあまり出会わないけれど、基本的にティーバックを穿いていることはない。なぜなら、たまに見かけるときに何のパンツを穿いているかわからないからだ。

 僕が見えるのは、ティーバックだけ。ティーバックを穿いていないと、何を穿いているかさえわからない欠陥能力だけど、僕にとってはじゅうぶんだった。


 そして、今日は金曜日。

 ローテーションを考えれば、見なくてもわかる。


 でもたまに別のティーバックを穿いていることもある。

 雫のティーバックのバリエーションは八つもあるのだ。凄い! ここまで多いのは僕調べでは一番だ!


「雫ってティーバックは八種類だよね? さすがにローテーションで同じものを穿かれると覚えちゃうし、見慣れちゃうよ。新しいの買ったら? 確か、月曜日と水曜日に見るやつってもう二年くらい穿いてるよね?」


「はぁ!? はぁ~~!? どういう神経してるわけ!? さすがに引くんだけど!」


「お、怒った」


「お、じゃない! お、じゃ! 怒るに決まってるじゃない! そんなに私のパ、パンツばっか見て、なんなのよまったく」


 顔を真っ赤にさせて、恥ずかしそうに怒る雫はとてもかわいい。より戻してくれないかな? 無理か。


 そのあと昼休みいっぱいまで使って、なんとか雫を宥めた。

 さて、朱音先輩のところへ行こうか。


   *   *   *


 まったく、隼人ってば人の気も知らないで。


「このままじゃ隼人が犯罪者になって、ケーサツに逮捕されちゃうかも……。おじさんとおばさんになんて言えば……」


 隼人の両親は一昨年、交通事故で亡くなった。

 私の両親が仕事の都合で、私の中学生活最後のテニスの試合の送迎をできなくなったことがあった。そのときに、代わりに送ってくれたのだ。車の中で、私は隼人を任された。ちょっと危ない子だから、面倒を見てあげて、と。

 隼人は変態でちょっと気持ち悪いけど、私にとっては弟みたいなものだし、長い付き合いで慣れもある。

 何より、隼人がほかの人に手を出さないようにティーバックを穿き始めたのだ。手を出すなら私に出してほしい。


 ……私って魅力ないのかな?


 隼人と関わっていると、思わずそう考えてしまうことがある。

 一度は隼人とお付き合いもしたけど、長続きしなかった。

 付き合ってからは会うたびに、出会いがしらに「今日は何々のティーバックなんだね!」やら「今日はティーバックじゃないんだね!」やら言われれば、そりゃ滅入りもする。

 いまでも言われるけど、出会いがしらには言われなくなったのが幸いだ。


「ローテまでバレてるし……新しいの買おうかなぁ」


 意外と下着は高いのだ。上下で揃えたいから、お金がかかる。

 だから、気軽に手が出ない。


「ていうか、ローテまでバレてるのに手を出されないなんて――もしかして魅力なさすぎ? それとも、隼人ってホントにティーバックにしか興味ないってこと?」


 廊下を歩きながら、うーん、うーんと唸る。


「朱音先輩ですよね! 僕二年の下田隼人しもだはやとです!」


 その目の前で――朱音先輩をナンパしている変態がいた。


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