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冬の章・20 選択肢は二つ

 最低と言われても、反論など出来るわけもなく、無論するつもりもなかった。


「まったくだな、最低だ」


 篠原は誉の顔を見るなり、冷ややかな眼差しを向ける。


「教員としては、まあアリかもね。でも、個人的には冗談で済ますってのはいただけないな」

「そうだな……」


 笑っていた。今にも泣き出しそうな表情で。

 あの時、どうすればよかったのだろう?


「両思いだよ、山田さんの気持ちに応えないの?」

「え……ああ」


 まだ頭が上手く働かない。

 彼女が自分を好きだというのは本当なのか?

 嬉しいというよりも、驚きの方が大きい。

 彼女に好かれるようなことは、何一つ思い浮かばない。むしろその逆の方が多かったと思う。何より第一印象が最悪だったはずた。

 本当に? 彼女が? 自分を?

 何故やどうしての疑問ばかりで、答えは見つからない。


「どうすればいいのか……」

「ん?」

「わからないんだ」

「わからないの? じゃあ教えてあげようか。選択肢は二つだよ、先生」

「二つ?」


 篠原は冷めた面持ちで腕組みをしていたが、途方に暮れた誉の顔を目にして呆れたように息を吐いた。


「一つ目、このまま放置する。そうすればこのまま自然消滅だ。やがて山田さんには歳の近い彼氏ができるだろうね。先生は遠くから仲睦まじい姿を、指をくわえて見ていればいい」


 きっとそれが一番望ましい選択だろう。彼女ならすぐにでも相手は現れる。普段は無愛想な三河島ですら、色めきだっているくらいだ。自分への思いなんて、すぐに忘れてしまうに違いない。


 だけど……俺は。


「二つ目は、自分の気持ちに従うままにってところかな」


 自分の気持ち、か。


「……怖いな」

「まあ、確かにそうだね」


 わかっている。このまま何もせず、動かなければ明日も今日と変わりない一日が訪れる。

 ずっと考えていた。どうすれば、彼女への思いをなかったことができるかを。そうしたければ、このまま研究室を片付けて、真っ直ぐに帰宅すればいい。

 自分の思いも、彼女の思いも、全部なかったことにして。


 わかっている、嫌なくらい。

 でも、俺は。


「……篠原」

「ん?」

「施錠を頼む。あと、これも」


 宴の後の残骸に視線を向ける。うわぁ、マジですか……と、いかにも嫌そうな呟きは聞かなかったことにする。


「いいけど…………高く付くよ?」

「構わない」

「健闘を祈るよ」

「……ありがとう」


 研究室の鍵を篠原に投げ渡すと、コートを掴んで走り出した。

次話は、ひなた視点からです。(予定)

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