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冬の章・14 帰国しました

 日本はすでにクリスマスから正月へと移り変わっていた。頭のてっぺんからクリスマスにどふ漬けだったものだから、ようやく解放されたようで安堵する。


 からからからから……キャリーバッグを引く音が廊下に響く。

 自宅に帰るよりも、大学の方が近い。どうせだから、書類や荷物は研究室に置いていこうと、空港から直行で大学に寄ったわけである。

 もう授業も終わっている時間だ。当然事務室も閉まっている。薄暗い廊下は暖房の利きが悪いため、外と変わらない寒さだ。吐く息が白い。


 無人の研究室はさらに室温が低いようだ。コートを着たまま、キャリーバッグの中身を選別する。家ですぐに読みたい書籍以外は無造作に机に積み上げる。必要書類も研究室に置いておいた方が安心である。忘れてはいけないのがお土産で、大学で配る分をバッグから出すと、ずいぶんと軽くなった。持ち帰る分は実家の分と……コートのポケットに入るくらいの、金色のリボンを掛けた小さな包み。


 勢いで買ってしまったが……。


 ひなたにお守りのお礼を、と思って買ったのは小さなスノードームだった。、雪だるまサンタクロースが入ったもので、いかにもクリスマス感溢れたものだ。

 クリスマスマーケットの雰囲気に飲まれたのかもしれない。我に返って後悔した。菓子にしておけばよかったと。

 しかし、買った菓子は大人数に配るようにと、質より量を優先したものだ。


 そうだ。何も出張土産である必要はない。あとでどこかで買い直せばいい話だ。何となく彼女が喜んでくれそうだな、と思ったのはこちらの勝手だ。もし好みの品じゃなければ迷惑なだけだ。


「はあ……」


 渡したいという気持ちと、止めた方がいいだろうという気持ち。相反した気持ちに翻弄されて、考えることに疲れてしまった。

 そうだ。文鎮がわりに自分で使えばいい。

 ラッピングを解いてしまおうとリボンに手を掛けたが、なぜだか躊躇してしまう。


「……………………」


 しばらく葛藤するが、葛藤することに疲れて、後回しにしようとコートのポケットに入れて保留することにした。

 

 ※ ※ ※


 今日は仕事納めの日。まったく一年というものは、年を追うごとに速く過ぎていくようだ。

 昨夜は学部の忘年会があったようだ。帰宅してから篠原から「途中参加待ってるよ!」とのメールに気付いたが、さすがに帰国直後は勘弁と見てみぬ振りをしてしまった。


「皆で待ってたんだよー」


 と恨めしそうに言われるが、いつも出張にかこつけつて忘年会に出ようとしない誉自身に不満のようだ。


「つまらないものだが」

「やっぱりチョコかあ」


 毎年恒例のマカダミアナッツチョコレートに、篠原はあからさまにがっかりする。回収しようとすると「やだなあ先生、ありがとうございます」と、にっこり笑ってチョコの箱をホールドする。


「まあ……美味しいんだけど、ハワイかグァムにでも行ったみたいだよね」


 ちなみに、ハワイもグァムも一度も行ったことがない。


「もうお休み入っている人もいるから、年明けに配らせてもらうよ。じゃあ、田中さん、来年これ配るのよろしくね」


 と、篠原はちょうど電話対応を終えた若手職員にチョコの箱を渡した。


「はいわかりました。飛沢先生からのお土産ですか? ありがとうございます!」


 快活な笑顔でお礼を言われると悪い気がしない。我ながら単純だ。


「ハワイに行かれたのですか? 私も大好きなんです、ハワイ!」


 若手職員田中のまったく他意のない言葉に、篠原が笑い死にしたことは言うまでもない。

 まったく、笑いの沸点が低い奴だ。


 


短めですが……。

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