表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
82/99

冬の章・9 告白しないといけないらしい

 ありえない。彼女の言葉は辛辣ではあるものの、真実でもあるところが耳が痛い。

 だが研究者は少々変わり者が多く、故に独身者も少なくはない。だが、彼女はそういった一般論を言ったわけではないのだろう。

 的外れな発言で彼女のプライドを傷つけてしまったのか、思いやりのない言葉で彼女の心を傷つけてしまったのか、どちらなのかわからない。けれど、結果的に彼女を傷つけてしまったことにはわかりないのだろう。


「どうしてわたしが飛沢くんと付き合いたいなんてなるかあ? 付き合うなら、ちゃんと相手選ぶよ?」


 まるで付き合う価値ゼロとのいいように心が痛い。同時にそこまで言われなくてはいけないのかとも思うが、今は黙っているほうが懸命だ。


「ちょっと、ここまで言われていない反論とかないわけ?」


 反論してもいいのだろうか。いや、いいわけがない。


「いえ……特には」

「でしょ? 付き合って欲しいなんて言ってもいない相手に振られるって、どんな罰ゲームよ? は~あ、お詫びのひとつでもしてもらわないとね」

「できることなら何なりと」

「あ、今日の食事代を奢るのは当然だから無しね」


 と先手を打たれる。


「……あ、いいこと思い付いた」


 いつの間にか追加したボトルワインを手酌で注ぎなから、怖いくらいの笑顔を浮かべる。もう嫌な予感しかない。


「例の女子大生に……そうね、年内に告白することでいいわ」


 嫌な予感が的中した。


「彼女は、別にそういうことでは」

「却下。篠原くんから裏取ってあるんだから。残~念でした」


 篠原め……。

 

「死ぬ訳じゃないし、それくらいできるでしょ?」

 

 いや、死ぬ。社会的な意味で。


※ ※ ※


 篠原と連絡が取れたのは、ちょうど日付が変わる頃だった。

 メールが届いた直後、すぐざま電話をする。3コール目で篠原が電話に出るや否や、自分でも驚くくらい低い声が口をついた。


「今日のはどういうことだ」

「え? 何のこと?」

「だから。今日はどうして来なかった?」

「だから……あれ? 気を使ったつもりだったんだけど、駄目だった?」


 やっぱり。

 意図的に眞子と二人になるお膳立てをされていたわけか。


「最近ちょっといい感じだったじゃない? なのにいつも三人とか四人じゃ、二人の仲が進展しないかなーって気を使ってみたんだよ? あそこの店行きたかったけど我慢して」


 感謝されてもいいんじゃない? とのたまう奴の言葉は無視をして。


「余計なお世話だ」

「あっちゃー、余計なお世話だったんだ。で、眞子さん振っちゃったの?」

「いや。いや、ああ……」

「煮え切らないなあ、どっちなわけ?」

「確かにこちらから断ったが、どうやら勘違いだったようで」

「勘違いって?」

「いつ付き合って欲しいなんて言った? と言われた」

「んん? 話の流れがよくわからないんだけど」


 篠原の言う通りだ。自分でもよくわからなくなってきた。

 そうだ。確かにそんな雰囲気になったものの、改めて付き合いたいなんて言われていない。いや、そもそも告白なんてしなくても、付き合いたいといわんばかりの空気だったじゃないか。いや、それすらも経験乏しい思い込みだった可能性もある。


「わかった。今から行くからさ、飲み交わしながら話は聞きましょう」

「電車は」

「大丈夫~今ちょうどそっち方面の最終来たから」

「……わかった」


 明日は休みだからいいだろう。それに飲み直したい気分だった。


「何か希望ある?」

「ビールを頼む」

「了解」


 約一時間後、手土産を携えて篠原はやってきた。


「はい、ビール」

「どうも」


 冬季限定のビールだ。しかもちゃんと誉が好きな銘柄だ。冬とはいえ、ビールは旨い。しかも風呂上がりなら尚更だ。


「さっき、まだお風呂まだだったんだ」

「ああ、お前もシャワーくらい浴びるか?」

「大丈夫~ちゃんと入ってきたから」

「……なるほど」


 こちらが眞子を眼前に針の筵に座って味のしないビールを飲んでいた間、自分は彼女とお楽しみだったわけか。

 そうかそうか。


「……御馳走様」

「え~今から乾杯でしょ」


 プルタブを開け、缶のまま鈍い音を立てて乾杯をする。


「さーて、話を聞きましょうか」


 ちゃぶ台を挟んで向き合うと、篠原はにやりと笑う。三十過ぎた野郎がビール片手に恋バナとは。何というか……切ない図式だ。


「まず、君たちどこまで行ったわけ?」

「神楽坂と渋谷」

「あのねぇ」

「わかっている、冗談だ」


 不意打ちに食らったアレくらいだと話すと「ホントにぃ?」と疑いの目を向けてくる。仕方がないので、ざっくりと当時の状況を話す羽目になる。

 終電を無くした彼女が口にしていた「友人の家」が、誉の自宅てあったこと。ビジネスホテルを勧めた後に不意打ちを食らったこと。直後、父危篤の知らせがあったこと。


「ふーん、お父さん大丈夫だったの?」

「まあな、お陰様で」

「もし、その電話が来なければ、眞子さんとなし崩し的に付き合っていたかもしれないね」


 そうなのだろうか……いやそうかもしれない。父の新妻、有紀からの電話が救いとなったようだ。


「せっかくのチャンスを棒に振ったって感じじゃないね。誉くんにとってはよかったのかな?」

「……まあな」

「もしかして、眞子さん苦手?」


 即答するのも申し訳ない気もするが、今更取り繕っても仕方がない。


「まあ……少し」

「彼女確かにきっついところもあるけど、可愛いところもあるんだよ」

「だったらお前が付き合えばいい」

「それはパス。彼女いるしね」


 確かに。しかし理由はそれだけではなさそうだ。


「気付いてた? 眞子さん、誉くんのことずっと好きだったんだよ」

「嘘をつけ」


 つい先程全否定されたばかりだ。そんな訳がない。


「嘘じゃないよ。俺が開いた合コン、誉くんが参加する時必ず彼女いたでしょう? あれは誉くんに会いたかったからなんだよ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ