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冬の章・4 クリスマスの予定

 先生、なかなか戻ってこないな。


 凍える指でキーボードを叩き続けていたが、ふと手を止めてドアに目を向ける。

 年末は色々と忙しいらしく、研究室での飛沢の滞在時間は少ない。学会や年明けの期末試験の用意などでスケジュールが詰まっているからだろう。わかってはいるが、何となく避けられているような気がするのは、自意識過剰だろうか。


 確かにプライベートな飲み会に突撃したのは良くなかったと反省している。飛沢が快く思っていないことは、あの場のは対応からして明白だ。その後、飛沢に謝りに行ったが、その話題は蒸し返して欲しくなさそうな反応だった。


 一方篠原は普段どおり、もしかすると普段よりも機嫌が良さそうで、「ぜんぜん気にしてないから大丈夫だよ。よかったら、今度一緒に行ってみる?」と、特に気にしている様子ではなかった。


 先生、ちょっと怒っていたもんな……。

 はあ、と無意識のうちに溜め息が漏れる。


 どうしたら先生に、もっと近付けるようになるだろう? どうしたら、隣に並んでも相応しくなれるかな?

 でも、きっと無理だ。歳だって十以上離れている上に、ただえさえ自分は同級生の中でも子供染みている。童顔もあるが、中身が未熟なのだと痛感している。大人びた化粧やファッションを取り入れれば良いわけではないことくらいわかっている。似合っていないことも実証済みだ。


 不意にドアをノックする音がする。直後飛沢が姿を現したものだから、「ひゃ」と思わず驚きの声を上げてしまった。まるでやましいことをしていたかのような反応を取ってしまった自分に驚く。


「あの……すみません」

「いいや、こちらこそ」


 申し訳ない、と小さく告げる。

 飛沢が謝る必要など、どこにもないというのに。妙に律儀なところが微笑ましく感じ、つい頬が緩んでしまう。


「進み具合はどうかな」

 飛沢は自分のデスクのパソコンに向かいながら訊ねる。

「はい。あと三十分もあれば終わります」


 些細な会話ですら嬉しい。ちょっと浮かれているのを自覚しつつ答えると、飛沢は驚いたように軽く目を見開く。

 三十分では時間が掛かりすぎだろうか? 急に不安になってきた。


「もっと急いだ方がいいですか?」

「あ……いや、そうではなくて」

 ふむ、と考えるように一瞬軽く宙を睨む。

「まあ今月は楽しみも多いだろうからかな、張り切っているなあと思ってね」

 今度はこちらに目を向けて、穏やかに目を細める。

「そんな風に見えますか?」

「そうとしか見えないかな」


 真顔で肯定された。どうやら、飛沢とこうしてすごせる浮かれた気持ちがそのまま顔に出ていたようだ。

 うわぁ、恥ずかしい……。

 本当の理由を悟られなかったのは幸いだったかもしれない。もうこんな風に気軽に話すらできなくなってしまう。


「今年も小原くんが張り切っているようだ」


 一瞬何のことなのか頭を捻るが、すぐにクリスマスパーティーの話だと思い出す。カラオケ店のパーティールームでゼミやサークルのメンバーで、毎年開催しているらしい。少し前にひなたも誘われている。恐らく飛沢にもその話は耳に入っているのだろう。ということは……。


 飛沢先生は、クリスマスパーティーに出るのかな。


「山田さんも、楽しんでくるといい」

「……はい」


 返事をしたものの、まるで他人事のような物言に、ひなたは悟ってしまった。


 ああ、そうか……先生は。

 容易に想像できて、胸の奥がちくん、と痛んだ。


明けましておめでとうございます。

今年こそ、完結させます!

今年もよろしくお願いいたしますm(__)m

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