冬の章・1 寒くなってきましました
学会や他大学の非常勤講師やらで、あちこちを飛び回っているうちに秋はいつの間にかすっかり深まり、気づいたら十一月も終わろうとしていた。
「明日から十二月か」
研究室の卓上カレンダーは十月のまま、時が止まったままだ。十二月に替えたカレンダーを眺め、もう今年も終わりかと、毎度の台詞を呟いてしまう。
相変わらす暖房の効きが悪い研究室で、もう何度目の冬を迎えたことか。施設部に申し出てもなしのつぶて。改善される気配の欠片すらない。諦めて今年こそハロゲンヒーターでも購入しようか迷うのは、一応大学全体で節電をうたっているからである。
仕方がないので、室内でもコートを着ているわけだが、いかがなものかと思っている。
窓から覗いた空すら、凍えるような青を湛えている。学内を歩く学生らの姿もまばらで、寒空の下を行く彼らは、敵を目掛けて突進するかのように足取りに迷いがない。つまりは寒いから、無駄に寒い思いをしたくない一心なのだろう。
本日の最高気温は十二度。最低気温は五度。
平年並みの気温らしいが、寒いものは寒いのだ。
「おはようございまーす」
軽いノックの後、元気よくドアを開け放ったのはパート職員の大原だった。寒さを吹き飛ばすような元気印の彼女だが、やはり寒さには勝てないらしい。しっかりと紺色のダウンコートを着こんでいる。
「おはよう、大原さん」
「今日も寒いですねぇ。あ、先生。今日はこんなの持ってきたんですよ。主人の実家から色々送って貰ったんですけど、うちだけじゃ使い切れなくて」
フリーズドライの甘酒やフレーバーコーヒー、ココアや粉末タイプのレモンティーやミルクティーと、肩に下げた重たげなエコバッグから次々に取り出してはテーブルに並べていく。
「店でも開けそうですね」
「でしょう? 息子と旦那は甘いのが苦手だし、娘はダイエット中だし、飲むのは私しかいないんですよ。だから先生のところに持ってくれば皆で消費してもらえると思いまして。ここ寒いし、先生もたくさん飲んでくださいね」
「ありがとうございます」
寒くて小腹が減ったときには、大いに助かる。たまに昼食をとり損ねた時など、コーヒーを二、三杯飲んでやり過ごすこともある。
「でも、ごはんがわりにしちゃ駄目ですよ」
彼女にそんな場面を目撃されたのは数えたらキリがない。まるで母親みたいな指摘に、ほろりと苦笑いを溢す。
「……善処します」
短くてすみません……m(__)m
続きます。




