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秋の章・3 結婚式当日1

 眠い……。


 立ったままで余裕で眠れそうだ。しょぼつく目を瞬かせながら、こみ上げる欠伸をかみ殺す。駅のホームの電光掲示板を見上げ、まだ電車が到着しないことを確認すると、自動販売機に向かう。


 昨夜は散々だったな……。


 無糖の缶コーヒーを買い、ぐびりと一口飲み込んだ。また欠伸がこみ上げてきた。カフェインの効果が現れるのを期待しつつ、もう一口。


 篠原のせいで寝不足だ。なぜなら、奴のくだらない講義……良さそうな女性を見極める術。初対面の女性と良い感じになる会話術……他にも色々あったような気もするが、空が白んでくるまで語られたのだから堪らない。


 半分以上船を漕ぎながら篠原の話を受け流し、二時間くらいは横になったものの眠気はますますひどくなっただけだった。一方篠原は異様なほど元気で、朝食の仕度をし、誉のヘアセットを仕上げたのだった。


 確かに篠原が言うだけあって、仕立てのいいスーツである。黒いシングルジャケットに、シルバーグレイのベストは手触りからいってシルクであろう。明るいグレーのストライプのパンツも、奇跡的にサイズがぴったりだった。


 シャツの袖には白蝶貝のカフス釦。カフス釦なんて、これまで一度も付けた試しなど無い。いや、一度くらいあるかもしれないが、興味があまりなかったせいで忘れてしまっているのかもしれない。


 ……なんだか、仮装でもしている気分だな。


 普段着慣れない服装のせいだろう。肌触りのいいワイシャツの感触でさえ、妙に落ち着かない。誰も気にしやしないのに、人から見られているような気さえするが、きっと気のせいにちがいない。

 電車が到着するというアナウンスが入る。


「よし」


 缶に残ったコーヒーを飲み干すのと、電車がホームに入ってくるのはほぼ同時たった。ホームを駆け抜ける風を受けながら、自販機に寄り添うゴミ箱に缶を投げ入れた。

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