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夏休みの章・3 どうやら冗談みたいです

 わたしと一緒に居たいからって……。


 捉えようによっては、告白めいた発言ではなかろうか。

 しかし、順也が自分のことを……なんて非常に考えにくい。人当たりも良く、しかもイケメン。教授たちからの評価もどうやら高いらしい。

 一方ひなた自身は平々凡々。可もなく不可もなく、どこから見ても平均的。卑屈になっているわけはないが、順也のような相手が惹かれるような要素は無い。恐らく皆無だ。


「ひなたちゃん」


 順也の声で我に返る。


「今の冗談だから」

「え」

「ちょっとひなたちゃんをからかってみたくて。困らせちゃってごめんね」


 ペロリと舌を出しておどけてみせる。

 そうだ。順也みたいな素敵男子が、地味で取り立て可愛いわけでもない人間に、好意を抱くわけもない。


「そっかあ。そうだよね」

 

 妙に納得しながら頷いた。

 ちょっとでも「もしかしたら?」と考えてしまった自分に恥ずかしくなった。




 その夜、久しぶりに智美から電話が掛かってきた。


『それって、本当に冗談だったのかな?』


 今日の出来事を何気なく話したら、智美が納得いかないといった様子で呟いた。


「だって冗談だって言ってたよ」


 ベッドに寝転んだまま呑気に答えると、携帯電話越しの声が険しくなる。


『そりゃ、告白した相手が困ったら「冗談」って言うしかないんじゃない?』

「そうかな……」


 確かに一瞬だが「もしかして」と思ってしまった手前、強く否定できない。


「でも、どう考えても好きになって貰えるような要素が、わたしには無いっていうか」

『あのねえ、ひなた』


 智美は呆れたように、ため息を吐く。


『好きになるのに、理由はないの。理屈じゃないの! わかる?』


 恋愛の話になると、よく智美が口にするフレーズだった。

 理由なんかない。理屈じゃない。そうは言われても、よくわからない。


「うーん……」


 曖昧な相槌を打つと、また智美のため息が聞こえた。


『一緒にいると楽しいとか、会えたら嬉しいとか、会えなかったら淋しいとか、安心するとか、胸がドキドキするとか! 理由はわからないけど、そういうのってあるでしょ?』

「あるような、ないような……」

『あるの?』


 期待に満ちた声が耳朶を打つ。

 しまった。曖昧な発言が、智美に余計な期待を抱かせてしまったらしい。


「やっぱり、ない」


 即座に否定すると、智美は「なんだあ」とあからさまにがっかりした声を上げる。

 しばらく他の話題を話してから、今度買い物へ行く約束をして電話を切った。


「……」


 むくりと起き上がると、今度は枕を抱えて寝転んだ。

 智美には「ない」と言ったけれど、本当はちょっとだけある。

 この三日間のバイトを頼まれた時だ。その間、飛沢が不在だと聞いた時。


 ――淋しいなって思ったのは、智美ちゃんが言っていたのにカウントされるのかな?


 どうなんだろう、と考えてみたのも束の間、睡魔には勝てなかった。結局答えが出ないまま、眠りへと落ちていった。

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