初顔合わせ? 8
つい、まなじりが垂れそうになって──しかしグンナールはハッと母の存在を思い出した。
母は、彼の後ろで、アルフォンス・レヴィンにはにこやかにして見せながらも、その影では息子に背筋が凍るような視線を飛ばしてくる……。
もはやその辛抱はすりきれそうという気迫で、グンナールは母の噴火が間近であることを察する。
(い、いかん……! ここはいったん退却だ!)
あの母グネルは、この再婚を叶えるために本国にいる一族と大喧嘩をした。
彼らの一族は、特に他種族との婚姻にうるさい。
その争いは互いが強力な竜人族であるだけに非常に苛烈。特に、彼の叔父、母の兄とは、本当に血の降る争いを繰り広げた。
そこへきて、グンナールがこの再婚に水を差すような真似をしたら、きっと再びあの荒れ狂うような母の顔を見ることになるに違いない。
(あんな顔をエミリアが見たら──……驚きすぎて、失神してしまうのでは……!?)
それだけは絶対に防がねばとグンナール。
彼は慌てて身を返し、その場を離れようとした。
あの母の様子からして、彼がここを離れれば、きっと事情を問いただしについてくる。そこで、母をなだめるのは、今の彼の急務であった。
「申し訳ありません。少し席を──」
外させてください、と、男爵に請おうとした、その瞬間のことだった。
グンナールのそばで、彼をじっと見上げていた娘が、おそるおそる話しかけてくる。
「あ、あの……お兄様……?」
「⁉」
その呼びかけに、グンナールの足は固まったように動かなくなった。
思わずエミリアの顔を凝視してしまう。
必死な娘の顔は、なんだか警戒した子猫のようだった。
眉間にはしわ。睨んでいるようにも見えるが、瞳には困惑がのぞき、もじもじと不安そうな指先がなんとも可愛らしかった。
そんなエミリアに呼び止められたグンナールは、苦悶する。
(…………お……“お兄様”──……⁉)
すでにかなり惚れ込んでしまっているせいか、そんな呼ばれ方をすると、心臓がぎゅんっと持っていかれる。これはまずい傾向だ……と、思ったが。何も知らぬエミリアは、額に小粒の汗を浮かべながら続ける。
両手の拳を腰の脇で握りしめ、「押忍!」とでも言いそうな体育会系な顔で。
「……(ぶ、武人の形相……)」
「お兄様、お願いです!」
「う、うむ?」
「わたしのこと──好きになってくださいね⁉」
「っ⁉ (す──……⁉)」




