その出会い 1
その男は、教会堂の高窓から憤怒しながらその式を監視していた。
風にたなびく黒く分厚いローブの下にのぞくのは、真珠のような光沢のある髪に黄金の瞳。鋭いまなざしは険しく眼下の教会堂のなかを睨む。
身を包んでいるのは旅衣装。
とてもアルフォンスらを祝福しに来たというふうではない。
(あの、愚か者め……!)
ガラス越しにそこで粛々と執り行われたささやかなる式典に、彼は苛立ちも露わ。全身からは並々ならぬ怒気が湯気のように立ち上っている。
どうやらその怒りの矛先は、式を挙げた二人に対するもののよう。
すでに彼が睨む先にはもうその二人の姿はないが、それでも男のいらだちはおさまらぬのか、その周りには魔力の爆ぜる小さな輝きがパチパチと音を鳴らす。
と、ふいに、そんな男の背後に人影が現れた。
「……連行しますか? どっちかつーと、男のほうをさらったほうがことは楽ですが」
その問いに、男は重く沈黙。冷たいまなざしで数秒何事かを考えてから、口を開いて命じた。
「いや、やつは一筋縄ではいかん。ひとまず時期を見る。合図を待て」
命を聞くと、男の背後へ現れた影はすぐに去って行って、教会の屋根の上には彼だけが残された。
男は、まわりに広がるクロクストゥルムの町を冷酷な目で見渡す。
「……愚か者どもめ……見ておれ、我が怒りを思い知らせてやる!」
「………………」
「………………」
教会堂の屋根の上で、謎の男が怒りの言葉を吐いた、十数分後。
その男はなぜか、町中で青白い顔の令嬢に見つめられ、戸惑いも露わに立ち尽くしていた。
彼を、かなりの身長差で下から見つめるミントグリーンの三白眼。その怪訝そうな視線は、男から一切逸らされることない。
彼は、こんなに不躾な視線を他人からぶつけられたことがなかった。男は無言ながら困惑の面持ちで、その娘を見た。
淡い色のドレスを砂まみれにした、雄鶏を抱きしめた人族の娘。
その顔と、彼女が守るように抱く雄鶏の白い身体とを食い入るようにして見比べながら、彼は現在ある疑問に戸惑っている。
場には、じり……とした、なんとなく互いに身動きがとりがたい空気が流れていたが、しばしの睨み合いののち、ローブの男はハタと我に返る。
気がつくと、この謎の対峙には、往来を通りかかった領民たちが不審げな顔をしている。
そこは先ほどの教会を進んだ先にある川べりの道で、さして人は多くなかったが。それでも彼がよそ者であることも手伝ってか、ふたりと一羽は、とても目立ってしまっていたようだ。
……まあ、道端で、若い娘と互いに黙りこくって睨みあう姿は確かに異様。
しだいに人目が集まりはじめたことを感じた男は、内心焦る。彼は、あまり人目についていい存在ではないのである。
慌てた男は早くこの場を立ち去らねばと思うのだが──。
そこで自分を、不審げな瞳で穴が開きそうなほどに見つめている娘のことは、どうあっても放置することはできなかった。
「っ!」
男は黄金の瞳をカッと見開き、舌打ちすると。その娘──エミリアに、素早く腕をのばし、つかみかかった。




