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初顔合わせ? 6

 

 ただ……幸か不幸か。どうやらエミリアは、昨日自分にウロコを渡した竜人族の男が、今目の前にいる義兄だとは気がついていないらしい。


 先出のとおり、彼ら竜人族は姿を変えられる。

 彼らは遥か昔、偉大なるドラゴン王によって生み出された血族で、王に与えられた魔力でドラゴンに近い姿にもなれるし、人族に近い姿になることもできる。

 グンナールは普段、その人族に近い姿で過ごすことが多いのだが……。


 それなのに、エミリアとの初顔合わせにこの竜人態でやって来たのには訳がある。

 この土地に来る前、母グネルが手紙でぼやいていたのだ。


『どうやら継娘は、同族である人族をひどく嫌っているらしい。理由は分からぬが……それがとても心配だ』と。


 その手紙を読んだグンナールは、彼なりに考えた。


『……では、自分も人族に近い姿であってしまっては、義妹に嫌われてしまうのではないか?』


 それは、大いに問題である。

 なんといっても第一印象は大切。

 新しく家族になるのだから、彼としても義理の妹に悪い印象を与えぬようにしたい。


 ……しかし実のところ、彼は人族の年齢とその成長についてはあまりよく知らなかった。

 竜人族で十七歳と言えば、まだまだ子供同然で、彼のイメージのなかで『バルドハート』はコロコロした幼子だった。


 ──そうか、自分には、人族の幼い妹ができるのか。


『兄』

 それは、これまできょうだいがいなかった彼にとっては、なんだかとてもウキウキそわそわしてしまう響きだった。

 どんな種族でも、幼子はかわいらしい。義理とはいえ、兄として立派に妹を守ってやろうと──特に母親グネルは竜人族たちのなかでも非常に苛烈な火竜。怒れば火山が噴火したごとしになる。

 継父殿は、よくもまあ結婚を決断してくださったものだ……とグンナールはしみじみ。


 そんな貴重な御仁のためにも、兄として、あの暴君たる母から妹のことを守ってやらねばと彼は決意していた。 

 そのウキウキはどうにも彼の中だけでは納まりきらず。彼は領地で配下たちにもさんざん自慢した。


『……今度、わたしに幼い妹ができるらしい』※←自慢


 仕事中、急に真顔でそんなことを言い出した彼に、まわりは皆怪訝。


『え? はぁ……さようですか……(急になんなの……? あれ? これもしかして自慢……?)』

『よろしゅうございましたね(そうだ自慢だ。いいから祝って差し上げろ。……嬉しそうだな……)』


 微妙そうな者たちに『おめでとうございます』と祝され。いつもはほとんど笑わぬ彼が、じんわり嬉しそうな顔をしたのは──つい数日前のこと。


 ゆえに彼はこの初顔合わせに、他種族の小さな義妹に怖がられぬか心配ではあったものの、『人族嫌いのバルドハート』に嫌われぬため、こうしてドラゴン顔でやってきた。の、だが……。


 どう見ても幼子ではないエミリアを見て、彼はやっと自分の間違いに気がつく。

 

(…………しまった……そうか……人族の十七歳は……青年期なのか…………)


 まあ、どうみても幼児期では、ない。

 竜人族グンナール、大いなる衝撃の事実である。



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