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エミリアの嫉妬 6 願望駄々洩れ

 

 義兄の膝にはパール。両脇には美女二人。

 それを見て、エミリアがとっさにハーレムを連想してしまったのには訳がある。

 原因は、この騒ぎにも、グンナールの膝でのんきな顔でくつろいでいたパール。

 ニワトリは一夫多妻。複数の雌鶏に、雄鶏のボスが一羽、という構成が一般的。

 そのような知識があったからこそ、パールを中心に交えた彼らのようすを見たとき、エミリアはそれを想起してしまった。

 ……ようは、彼女はニワトリ文化よりも、竜人族の文化に疎いのである。

 エミリアは、顔をこわばらせたまま考えた。


(竜人族の皆さん(グンナール様たち)は……一夫多妻制なの……? ? ?)


 ……いや、そんなことはぜんぜんない。

 しかしその誤解はともかくとして、この状況にはエミリアは非常に困った。

 せっかく(?)パールと義兄に嫉妬して飛び出してきたのに、出鼻をくじかれた。これでは嫉妬先がさらに渋滞してしまう。


(……え? まって、分からない……これは……どうしたらいいの……? わたし……何かをお邪魔してしまったの……?)


 もしかしたら、義兄たちの愛の語らいか何かの場面に乗り込んでしまったのだろうか。


(そ、そんな……そんなことをしたら、わたしがものすごく嫉妬深い義妹みたいじゃない!?)


 愛鳥と義兄の親睦の場(?)を見て、即座に飛び出てきておいて、いまさらな感が甚だしいが……エミリアはとても慌てた。……本当にいまさらながら……もしやこの行動は、義兄に煙たがられるものだったかもしれないと思い当たった。

 これぞ、“兄が妹に対して感じる、うっとうしいか、愛しいかの岐路”の、“うっとうしい”ほうの道へ、一直線に踏み込む行いであったような気がして──……。


「……っな!? ど!?」


 困ったエミリアは、視線だけで後ろについてきたニコラに助けを求める。

 その目は明らかに混乱している。

 こんな事態はまったく想定外であった。

『ちょっと待った!』と、大声を張り上げてしまったがゆえに、皆が彼女のことを見ていた。

 ものすごく引っ込みがつかない状況。

 おそるおそるグンナールの様子をうかがうと、案の定、義兄は彼女をとてもけわしい表情で見ていた。その視線がひどく痛く感じて、エミリアは、ウッという顔。

 彼の膝の上のパールですら、呆れているような表情に見えて(※寝起きの顔)、なんだかとても居たたまれない。

 義兄のそばから離れない女中ふたりも、非常に戸惑っているようだった。


 グンナールと自分たちが共にいるのを見たとたん、何やら非常に困った顔で固まってしまった令嬢を見て、イドナとマチルダは心配そうに顔を見合わせる。

 二人とも、計算高く強欲な娘たちではあるが、非情ではなかった。

 特に……自分たちを途方に暮れたような顔で見つめ、立ち尽くしてプルプルしている娘などに対しては。


「お、お嬢様……?」

「ニコラさん……お嬢様はどうしちゃったんですか……? なんだかものすごくプルプルなさってますけど……。……壁際においつめられた仔リスみたい……」


 ワンピースの腹あたりを握りしめ、凍り付いたままの令嬢は、おそらく誰が見ても心配になる代物。

 二人は、令嬢についてきたヒヨコ顔婦人に訊ねるが……しかしニコラは二人をじっとりとしたまなざしで見たものの、ため息交じりで無言。

 なにしろ、令嬢が飛び出してきた理由は嫉妬。

 厳密に言えば、発端はこの二人の女中ではないが……なんだか面倒なことに、微妙にグンナールを狙っていそうな娘たちが事態に巻き込まれた。エミリアも、このふたりには“嫉妬”なんて事情は知られたくはないだろう。

 この二人にはあとで厳重注意するとして、と、ニコラ。

 ヒヨコ婦人は、やれやれと首を振りながらエミリアの背後まで進みよる。と、その耳にそっと語り掛けた。

 そんな彼女たちを、いまだ事情が分からないグンナールは息を呑んで見守っていた。


「……お嬢様、お嬢様。しっかりしてください。ほら、ここには何しに来たんでしたっけ……?」

「う……?」


 問われたエミリアは、歯ぎしりするような顔で反応。一瞬困惑のあまり頭が真っ白になっていたらしい。

 その眉間にはシワ。三白眼から放たれる眼光はギョロリと鋭い、が。そこにはまるで邪気も害意もないのである。

 呆然としていたエミリアは、ニコラの問いに、鈍く答える。


「……ぉ、お義兄様に……好かれに……来た……(あとパールの奪還……)」

「!?」


 こわばった表情の割に、素直に吐きだされた願望に。

 それを聞いたグンナールが、さっそく恋情ダメージを受けている……。




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