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エミリアの嫉妬 2

 


「………………なんなのぉあれええぇぇええっ!」


 エミリアが、物陰から思い切りひがんでいる。

 不満そうな唇は、尖らせすぎて、もはや鼻下にくっついている。

 そんな彼女の後ろには、複雑そうな顔のニコラ。ふたりの視線の先、窓の外には、グンナールとパールが。


 邸の裏庭で、義理の兄グンナールが庭の端に切り倒された切株の上に座っている。

 ここは田舎な男爵領。庭は上品に整えられているというより、ナチュラルガーデン……まあ、言ってみれば、その辺の野原がすこし小ぎれいにしてある程度のもの。

 そんな素朴な味わいの、のどかな裏庭で。

 義理の兄は切株に座り……かといって、メルヘンとは程遠く、まるで修行僧のようないかめしい顔で腕を組み、目を閉じて沈黙中。

 そのまわりを、エミリアの愛鳥パールがちょろちょろし。なんならグンナールの反応がないことをいいことに、太々しく育てられた雄鶏は、彼の膝の上にズカズカ上がり、そこでぽかぽかと満足げにひなたぼっこをしている。

 太陽の光にとろとろと目を細めている姿は、警戒心がまるでない。

 パールからすると、己の全身を最強人種の竜人族に預けたかたち。

 これ以上の安全地帯はなく、まるで王座に座ったような、とてもとても誇らしい気分だった。

 まあ、そんな尊大な雄鶏はともかく……。

 はたから見るとそれは、なんだかとても平和な図である。


 が、これにはエミリアが、かなりショックを受けた。


「……パールが……わたしの可愛いパールが……わたし以外の方のお膝に……!? お兄様の膝にパールが!? わ、わたしを差し置いて!?」


 ガーンとショックを受けたエミリアは、裏庭が見渡せる廊下の窓枠をにぎりしめて、複雑な感情に、ひんっと泣いた。


「っパールはわたしの子よ!? っわたしもお兄様とひなたぼっこしたい‼」


 特にエミリアは、パールという遠慮のない生物がとても羨ましい。

 自分にあの勇敢さ(?)があったら、今ごろあの膝の上でウトウトしているのは自分だったのだろうか……と……。

 別に兄はお昼寝させてくれるための存在ではないだろうが……。

 兄姉がいたことのない娘は愛鳥と義理兄のゼロ距離感に大いに胸をかき乱された。

 なんだか、最愛の飼い主という立場と、義理の妹としてグンナールに寵愛を受ける機会が遠のいたような気がして。

 焦りを感じたエミリアは、オロオロとニコラを見る。


「わ、わたしも……グンナール様に抱っこしてくださいって言ったらいいの⁉ それとも膝枕!?」※兄妹の距離感が分からない。

「お、お嬢様お待ちください! それはあんまりにもいきなり距離を詰めすぎです! ぜったいグンナール様に引かれるやつです!」


 ヒヨコ顔婦人は、慌てて止める。

 もしそんなことを言い出せば、グンナールは引かないにせよ、現在難しい顔でエミリアとの関係性に苦悩している彼が仰天するのは目に見えていた。

 しかし、そんなグンナールの心情など知らぬ新米義理妹は、時には大胆に行くことも必要ではないか、と、提言。


「だって、素直になることも必要では? “兄とは、妹を愛おしくも、時にうっとうしく感じるもの”と、ある書物に書いてあったわ。つまり──わたしは今、お兄様からの評価の岐路に立たされていると思うのよ……“愛おしい”か、“うっとうしい”か。」


 エミリアは、人差し指を立てて持論を展開。その、わかるような……わからないような説明に、ニコラは戸惑いをのぞかせる。


「ぇえ……?」

「兄という生き物が、そうであるのならば、妹のほうでもそうってことよ。兄は、うっとうしくもあり、愛おしくもある」


 そういうことに違いない、と、エミリアは真顔で断言。

 その兄妹論は、まあ……間違ってはいないような気もして。ニコラは難しい顔で沈黙。

 ならば、と、エミリアは真面目に続ける。


「ここは素直に『わたしはお傍にいたいです』と、示しておくべきではないかしら? そうしたら、あんがいグンナール様も、パールみたいに抱っこ……とまではいかなくても。手ぐらい握ってくださるかもしれないわ!」

「え……お嬢様……兄上様と、手をつなぎたいんですか……?」


 それって、できたての義理の兄妹としてはどうなんだろう……というニコラの戸惑った質問に。

 物陰から獲物を狙う(子猫)の顔よろしく、ひがみ全開でグンナールとパールを見ていたエミリアは、勢いよく振り返って断言。


「つなぎたいわよ! つなぎたいに決まってるでしょ!」

「ぇえ……」

「グンナール様は、わ・た・し・の! お兄様なのよ!?」


 我が(パール)に先を越されるわけにはいかないと。エミリアは力一杯主張した。




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