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グンナールとニワトリ 1


 さて、こちらはグンナール。……と、なぜかその足元には、エミリアの愛鳥パール。


 青年は、とにかく一度冷静になろうと、母グネルから逃げてきた。

 実はさきほどの昼食会、少々トラブルがあった。

 その発端となった母を叱っていて、青年は少々疲れてしまった。

 母のことは冷静なアルフォンスに任せ、事後処理を終えてから外に出ると、グンナールはやっと少しホッとする。

 そうして静かな場所を求めて再び邸裏の林の中に落ち着いたのだが──気がつくと足元には、何やら興奮気味のニワトリが。

 草の上にあぐらをかいて苦悩している男のそばで、雄鶏はいかにも構ってもらいたそうに、ウロウロ、ウロウロ。

 ただ、グンナールは、今はそれどころではなかった。

 男はほとほと困ったという顔で、ふかぶかとため息をこぼす。


「……あれを“妹”など……無理では……?」

「コケ」

「……困った…………」

「コケ?」


 いかにもつらそうな、ため息交じりの男の言葉に、ニワトリは怪訝。

 いや、グンナールとしては独白のつもりだったのだが……竜人族に敬意を抱いているらしい雄鶏が、いちいち合いの手を入れるもので……なんだかはたから見ると、とてもおかしな光景となっている。

 しかし、それどころではない男は片足に肘をつき、そこに頭を預けて嘆く。


「(可愛すぎて)エミリアを見ていられない……」

「コケ?」


 げっそり吐き出すグンナールの脳裏にあるのは、先ほどの食堂での一幕。

 その騒動は、母グネルがエミリアにある申し出をしたことで起こった。


 母の料理を嬉しそうに、もりもり口に運ぶ彼の義妹は、幸福感に満ちていて、それだけでとてもとても愛らしかった。

 賛辞の言葉は多くなかったが、一さじ一さじをまるで至高の一口というように、大事に大事に食べるさまは、母もさぞうれしかったことだろう。(※まさかそのせいで今エミリアが食べ過ぎに苦しんでいるとは思ってもみない)

 そんな義理の娘を見て、母がたまらずというような顔で切り出したのだ。


『バルドハート……お願いがあるの。あのね、“グネル様”だなんて……家族になるのだからもっと気やすく呼んでちょうだい。できたら“母”と呼んでほしいわ。もちろん……強要はしないけれど……』


 テーブルに乗り出して言ってグネルは、言ってしまってから、かたわらのアルフォンスに(無理かしら)と、少しだけ不安そうな目くばせ。

 亡くなったとはいえエミリアの生母は別にいるわけで、後妻のグネルとしては、やはりそこには気を遣う。

 でも仲良くなりたいわと願う目で夫を見る妻を、エミリアの父は少し微笑んで(さぁどうだろうか)という表情。

 どうやら父には、この後の娘の反応がだいたい分かっているようだった。


 グネルとグンナール、二人が心配そうにエミリアの反応をうかがう、と。

 そこにあったのは、まるで般若のような三白眼。


『っう!?』


 その表情には、武力が重んじられる国元で、その苛烈さを称え(?)“火山姫”(もしかしたら“姫”じゃなくて“鬼”だったかもしれない……byグンナール)の、二つ名で名をはせた母がたやすく怯む。

 ただ、同じくエミリアの顔を見ていたグンナールの目には、このときすでに愛情フィルターがかかっていたもので──母とエミリアの対峙も、仔リスが大蛇(※グネル)を睨んでいるような、かわいい(?)光景にしか映らなかったが。

 ともあれ。

 グネルの一言で、エミリアはいかつい表情。

 テーブルの上で握りしめられすぎのナイフとフォーク。

 眉間にはしわが浮かび、凍り付いたままの鋭い上目遣いは、怪訝な表情のように見えた。

 そうして沈黙している継子を見て、それを拒絶と感じたグネルが、ドラゴン顔を悲しそうに歪めている。


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