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エミリアの熱望 2

 

 ただ、鳥人族の彼女にとっては、竜人族はいささか緊張を強いられる存在。

 なんというか……友好的ゆえ恐ろしくはないが、相手が最強人種だけあって、どうしても威圧感を感じてしまう。その点、パールなどは、何も考えていないのか、グンナールの足元をちょろちょろしていたが。


「まあ……奥方様はかなりお嬢様を気に入ってくださったみたいですし、ご子息のほうも大丈夫な気もしますけどねぇ……」

「え? そう? そうなの?」


 ニコラの言葉に、エミリアは、そうだったらいいなと小さくはにかむ。

 一生懸命礼儀正しくしたつもりだが、彼女たちに気に入ってもらえているかは自信がなかった。

 だってヨダレも披露してしまった。


「………………」※思い出して失意。

「? お嬢様?」


 なぜか急に暗い顔でうなだれたエミリアにニコラは不思議そうだったが、ひとまず提案。


「(またなんか苦悩してる……?)え、ええと、姉妹なら一緒におしゃべりしたり、おいしいものを一緒に食べたりすると仲良くなれますけどね」


 が、その提案にはエミリアが悲壮な顔をする。


「……一緒に……? でも……わたし、もう食べれない……」

「あ……そ、そうでした……」


 じんわり泣きそうな顔をする娘に、ニコラはしまったという顔。

 グネルの料理で満杯のエミリアの胃は、確かにもう別腹すらもみっちりしているはず。

 婦人は慌てて、では! と、別の提案。


「お、贈り物などしてみてはどうでしょう!」

「贈り物……?」

「ほら、旦那様と奥方様には結婚のお祝いの品を用意しましたけど、お兄様はまず存在をご存じなかったから、何も用意しませんでしたでしょう?」

「あ……本当だわ……」


 その指摘に、エミリアはハッと深刻な顔。

 父と継母には、同じ細工をあしらったカフスとブローチを贈ったのだが、兄には何も贈り物をしていない。

 これではまるで、自分が兄を歓迎していないみたいではないか。

 エミリアは急に不安になる。


「……もしかして……それでご不興を買ってしまった!? だからお兄様と呼ばせていただけなかったの⁉」


 これは一大事とエミリア。慌ててベッドからはい出すと、そんな娘を助けながらニコラが助言。


「もともと、昨晩のウロコの殿方にも、お詫びの品を用意するおつもりだったことですし、一緒にお兄様にも何かお近づきの品を探してみては? 偶然にも、同じ竜人族のお方ですし」


 ……まあ、それは偶然でもなんでもないが……。エミリアは、ニコラの言葉に全力同意。


「そ、そうね! それがいいわ!? な、何がいいかしら!? 竜人族のお方への贈り物って何が好まれると思う!?」


 どちらの男性も、彼女にとても優しくしてくれた。ここはぜひとびきりのものを用意したい。

 が、ここでニコラがうっかりした。

 訊ねられたヒヨコ顔の婦人は、考えるように天井を向いて少し首を傾ける。


「そうですねぇ……でもお嬢様、ご兄弟はいたことはなくても、男性への贈り物ならしたことがあるで──」


 しょう? と、言いかけて。ニコラはハッとして、しまったという顔。


 その贈り物の受取人は──もちろん、ドミニクである。

 案の定、その言葉でかの元婚約者を思い出してしまったらしいエミリアは、青白い顔を傾けて表情を消す。


「………………」

「あ、あ……お、お嬢様……」


 エミリアは思い出していた。

 彼に贈り物をして、彼が喜んでくれたこと、『嬉しいよ!』と、微笑んでくれた過ぎ去りし日々。

 エミリアは、とたんムッとして、口をへの字にまげて。しかしその目はどんどん潤んでいった。


「………………」


 ニコラが慌てふためく前で、エミリアの頭はぎぎぎ……と、沈み、終いには、彼女はベッドわきの床に、まるまり、自分の膝に向かって突っ伏した。

 できあがった、令嬢団子。


「おおおお嬢様! ご、ごめんなさい! 失言いたしました! な、泣かないで!」

「な、ないて、ない……」


 そうしぼり出される声は、明らかに涙の合間にひねりだされている。



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