初顔合わせ? 4
さて、エミリアがそうしてハンターのような目で決意を燃やしていた時。
そんな彼女を見下ろしていた竜人族男子、グンナールは、いささか呆然とした思いでそこに立っていた。
(……、……、……彼女が、義理の妹……だと……?)
彼はとても戸惑っていた。
自分を、気合のこもったミントグリーンの三白眼で見上げる人族の娘。
視線の気迫に反して、その見た目は実に儚げ。
雪のような純白の髪に、芽吹きはじめの草原を思わせる淡い緑の瞳。身丈は小さく、人族たちの平均的な身長を考えてもやや小さめ。手足は細く、見ているだけで今にも折れやしないかと不安になるが……。その手を、彼女は何故かぎゅっと強く握りしめているものだから、グンナールは非常にハラハラした。
……そんなに力んで大丈夫か? 血管ちぎれるのでは?
ただ、彼がこのような不安を抱くのは、昨日に引き続き、二度目。
実は、彼は昨日すでに彼女と出会っている。
それは彼がこの領地に──母の再婚相手の治める領地に、はじめて降り立ったときのこと。
そこで彼は、町でエミリアを見かけたのだが……ただ、そのとき彼は、今とはまったく違う姿であった。
彼ら竜人族は魔力の強い種族で、いくつかの姿を使い分けて生きている。
昨日の彼は、今の竜人の姿ではなく、より人族に近い姿であった。
義理の父となる男爵が治める領地周辺は、人族の国。
隣国からきた竜人族の彼は、そこにいるだけで非常に目立ってしまう。人族の中には、他種族を恐れる者もいて、それに配慮した形である。
──人態になれば目立つこともあるまい。
……そう考えていたグンナール。
ただ……。この厳めしい見た目に反し、若干のんびりした気質の彼は、大いに失念していた。
己の頭にある、立派なツノのことを。
そもそも竜人族の中でも体格がいい彼は、人族よりもかなり上背があり、雑踏に紛れても頭一つはとびぬけてしまう。
その頭に、仰々しい黒々とらせんを描いたツノがそそり立っているのだから……まあ、それが目立たないはずがないのである。
結局、彼はクロクストゥルムの町でまわりに正体が知られ、往来でちょっとした騒動に見舞われてしまった。
けれどもその折、彼はある人族の娘に救われ事なきを得た。
そこで起こった出来事は、最終的に、予想だにしない温かな気持ちを彼にくれて……。
グンナールは、助けてくれた娘の毅然とした姿勢と、若干のおもしろさ、そしてそこにのぞいた親切な心根に、すっかり惚れ込んでしまった。
それでつい……彼は、彼女にその場で、あるものを渡した。
そのあるもの──彼自身のウロコを、どうやら収めてあるらしい銀色のロケットペンダントは。
現在、彼の目の前に立つ義理の妹エミリアの胸元でキラキラと輝いている……。
(……、……なんと──…………)
事態を悟ったグンナールは絶句した。
それは彼らの国、竜王国ケルンタールの古い習慣のひとつ。
男子が未婚女性に贈れば、それすなわち、求婚を意味する。
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