エミリアの失態 4 ヒヨコ婦人の乱入
黄色くまるい顔をした何者かは、泡を食ったような表情で、見つめ合っていた二人のもとへ景気よくダイブ。
よく見れば、その顔は鳥のような顔で、ともすれば、その飛びっぷりは鳥の飛び立つ姿に似ていた。
唐突な乱入者に、グンナールは一瞬身構えエミリアの前に立った。
が、その行動が、逆に乱入者を怒らせた。
「!? お嬢様から離れて!」
厳しい声に、身構えていたグンナールはハッと動きを止める。と、彼の影から、その悲鳴のような声を聞いて、エミリアが顔を出し、あらという顔。
「ニコラ? 来たの? どうし──」
「お嬢様! ご無事ですか⁉」
憤怒したヒヨコ(?)のような顔の婦人は、エミリアの顔を見つけると、緊張した顔でグンナールを睨む。
その敵意に、エミリアが慌てた。
「あ、あら違うのよニコラ! 師匠、この者はわたしの家の者です」
「(……師匠?) ああ、なるほど」
エミリアの言葉に若干引っかかりは覚えたものの、グンナールは警戒を解く。
が、同じくエミリアの願望駄々洩れの言葉に引っかかった婦人は、ゼイゼイ言いながらキレ気味にグンナールを睨む。
「師匠⁉」
いったい何の!? と、ニコラは二人を怪訝に凝視して──……ここで彼女はハッとする。
病室の寝台のうえで、エミリアが見慣れない簡素な服を着ていることに気がついて、この世話人は驚愕した。
「お嬢様⁉ なぜ外でお召替えを⁉」
まさかこいつになにかされたのか⁉ という敵意が再びグンナールに突き刺さる。……が、もちろんそれは、エミリアが盛大に嘔吐した故に着替えたのである。手伝ってくれたのは、女性看護人であったのだが、大事な令嬢が消えたことに驚き、悪い想像に苦しみながら町を駆けずり回っていたニコラは、すっかりグンナールを誤解した。
「っ! っ! っぴぃいいいいい‼」
「! ニ、ニコラ⁉」
「……」
憤怒した鳥人族ニコラは、その瞬間人語を忘れた……。
キレ散らかし、けたたましい鳥語でグンナールを猛烈に罵り始めた婦人にエミリアはびっくりする。
「ギャ! ギャ‼ ギャギャギャギャ⁉」
「!? ちょ、ちょっとやめ……やめてニコラ!? な、なんて言ってるかぜんぜん分からないわ!?」
愕然とニコラにすがるエミリア。それでも止まらぬ憤慨したヒヨコ顔婦人の口撃、に……キョトンとした顔のグンナール。
……カオスであった。
グンナールは、いささか切ない気持ちでその医館をあとにした。
出会った彼女とまだ共にいたかった。
けれども、鳥顔の婦人があまりにも激怒していて、状況が悪すぎた。
彼女の身内に誤解されたまま立ち去るのはかなり不本意だったが、あのまま彼が頑固にそこに居座れば、あの鳥顔の婦人をよけいに興奮させてしまいそうだった。
そうなれば、青い顔で婦人を止めていたエミリアが、また具合を悪くして倒れてしまうかもしれない。
グンナールは後ろ髪を引かれる思いながらも、あとのことを医館の者に任せていったん退却することにした。
しかし、医館を出たあとも、どうにも切なくその場を離れがたい。
(大丈夫だろうか……いや……ウロコは渡した。あれがあれば……)
喉元に手をやると、そこには一枚ウロコを失った場所が。
それを今手にしているだろう娘の顔を思い浮かべると、グンナールは穏やかに、それでいて心が躍るような至福を感じた。
思わず熱いため息がもれる。
ウロコの加護は、きっと彼女を守るだろう。そしてその導きがあれば、彼は再び彼女と見えるはず。
(……きっと、また会える)
そのとき、彼女が今よりずっと元気だといいと祈りながら、彼は夜道を帰路についた。
まさか──
その再会が、思ったよりもずっと早く、しかも、思わぬ関係性を結ばざるを得ないものだとは……。
このときのグンナールには、想像だに出来なかった。
…ニコラはおそらく、「わたしのお嬢様に何をした!?」とか言っていたものと思われます。
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