表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

36/81

エミリアの失態 4 ヒヨコ婦人の乱入

 

 黄色くまるい顔をした何者かは、泡を食ったような表情で、見つめ合っていた二人のもとへ景気よくダイブ。

 よく見れば、その顔は鳥のような顔で、ともすれば、その飛びっぷりは鳥の飛び立つ姿に似ていた。

 唐突な乱入者に、グンナールは一瞬身構えエミリアの前に立った。

 が、その行動が、逆に乱入者を怒らせた。


「!? お嬢様から離れて!」


 厳しい声に、身構えていたグンナールはハッと動きを止める。と、彼の影から、その悲鳴のような声を聞いて、エミリアが顔を出し、あらという顔。


「ニコラ? 来たの? どうし──」

「お嬢様! ご無事ですか⁉」


 憤怒したヒヨコ(?)のような顔の婦人は、エミリアの顔を見つけると、緊張した顔でグンナールを睨む。

 その敵意に、エミリアが慌てた。


「あ、あら違うのよニコラ! 師匠、この者はわたしの家の者です」

「(……師匠?) ああ、なるほど」


 エミリアの言葉に若干引っかかりは覚えたものの、グンナールは警戒を解く。

 が、同じくエミリアの願望駄々洩れの言葉に引っかかった婦人は、ゼイゼイ言いながらキレ気味にグンナールを睨む。


「師匠⁉」


 いったい何の!? と、ニコラは二人を怪訝に凝視して──……ここで彼女はハッとする。

 病室の寝台のうえで、エミリアが見慣れない簡素な服を着ていることに気がついて、この世話人は驚愕した。


「お嬢様⁉ なぜ外でお召替えを⁉」


 まさかこいつになにかされたのか⁉ という敵意が再びグンナールに突き刺さる。……が、もちろんそれは、エミリアが盛大に嘔吐した故に着替えたのである。手伝ってくれたのは、女性看護人であったのだが、大事な令嬢が消えたことに驚き、悪い想像に苦しみながら町を駆けずり回っていたニコラは、すっかりグンナールを誤解した。


「っ! っ! っぴぃいいいいい‼」

「! ニ、ニコラ⁉」

「……」


 憤怒した鳥人族ニコラは、その瞬間人語を忘れた……。


 キレ散らかし、けたたましい鳥語でグンナールを猛烈に罵り始めた婦人にエミリアはびっくりする。


「ギャ! ギャ‼ ギャギャギャギャ⁉」

「!? ちょ、ちょっとやめ……やめてニコラ!? な、なんて言ってるかぜんぜん分からないわ!?」


 愕然とニコラにすがるエミリア。それでも止まらぬ憤慨したヒヨコ顔婦人の口撃、に……キョトンとした顔のグンナール。


 ……カオスであった。




 グンナールは、いささか切ない気持ちでその医館をあとにした。

 出会った彼女とまだ共にいたかった。

 けれども、鳥顔の婦人があまりにも激怒していて、状況が悪すぎた。

 彼女の身内に誤解されたまま立ち去るのはかなり不本意だったが、あのまま彼が頑固にそこに居座れば、あの鳥顔の婦人をよけいに興奮させてしまいそうだった。

 そうなれば、青い顔で婦人を止めていたエミリアが、また具合を悪くして倒れてしまうかもしれない。

 グンナールは後ろ髪を引かれる思いながらも、あとのことを医館の者に任せていったん退却することにした。


 しかし、医館を出たあとも、どうにも切なくその場を離れがたい。


(大丈夫だろうか……いや……ウロコは渡した。あれがあれば……)


 喉元に手をやると、そこには一枚ウロコを失った場所が。

 それを今手にしているだろう娘の顔を思い浮かべると、グンナールは穏やかに、それでいて心が躍るような至福を感じた。

 思わず熱いため息がもれる。

 ウロコの加護は、きっと彼女を守るだろう。そしてその導きがあれば、彼は再び彼女と(まみ)えるはず。

 

(……きっと、また会える)


 そのとき、彼女が今よりずっと元気だといいと祈りながら、彼は夜道を帰路についた。


 まさか──

 その再会が、思ったよりもずっと早く、しかも、思わぬ関係性を結ばざるを得ないものだとは……。

 このときのグンナールには、想像だに出来なかった。








…ニコラはおそらく、「わたしのお嬢様に何をした!?」とか言っていたものと思われます。


少しでも面白いな、続きを読みたいなと思っていただけましたら、ブクマや評価で応援していただけると嬉しいです!(書き手が大いに張り切ります!笑)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ