ミンディ・ハウンの逆恨み 2
そんな不幸に見舞われ続けるエミリアを見たドミニクは、いつも彼女をベタベタに甘やかそうとした。
しかし、それに対するエミリアはといえば、『手助けばかりされては、わたしが成長しないのよ』などと言って、いつも彼の手助けを拒む。
何もかも自分のせいとはいえ、想い人を邪険にされたようで、ミンディはいつも腹立たしかった。
自分があんなふうにドミニクに優しくされたら、きっと天にも昇るほど幸せなのに、あの女はそれをずっと断り続けたのだ。彼と恋人になったあとも、婚約したあともずっと。
自分が望んでも手に入れられないものを、断固として受け入れないその女が、ミンディは憎くて仕方がなかった。
しかし、これにはエミリアにも言い分がある。
ドミニクが自分に気に入られようとしていることは、当初の彼女も分かっていたが……。
頑張りたいエミリアに、どこでもかまわず向かってくるドミニクには、正直なところ彼女は困っていた。
試験前、集中して勉強したいと思っても、『息抜きに行こう!』と、押しかけてくるのがドミニクで、断ると、『じゃあ僕も勉強しようかな!』と、彼女のそばに居座るのが彼だった。
そして彼は、エミリアにかまってもらおうと、『ねえ、ここが分からないよ』『教えて?』と、甘えた顔で頼んでくる。
当時はまだやさぐれてはいなかったエミリアは、困ったなぁとは思っていても、素直にそれを受け入れた。
結果、エミリアは勉強がぜんぜん進まず……。結果徹夜をする羽目になったということもしばしば。
たまりかねた彼女は、ドミニクに『試験期間はこないで』と断りを入れる。
するとドミニクはとてもガッカリしていたらしく、そんな彼を見たミンディが密かにいら立った。
──そういうことが、勉強以外でも積み重なってしまったのである。
(……あんな女、さっさと学園を出ていけばいいのに……)
本当に目障りでしょうがなかった。
大した家柄でもないのに、父親が国王の信頼を得ていることで、時折それがちらつくのが鼻持ちならない。
例えば付き合いの幅。
エミリアは、父の伝手で国王や王妃にも謁見したことがある。
そこで彼女は王妃にたいそう気に入られたそうで、以降彼女は、ミンディが望んでも到底出入りが許されぬような貴族の奥様方の茶会にも招かれる。
そんな彼女を、ドミニクの家族も褒めたたえていて、それも気に入らなかった。
(何よ! もしわたしにも同じ幸運があったら、きっとあの子よりもずっと素晴らしい成果をだせるのに……!)
なぜ、エミリアが奥方らに気に入られるのかが、ちっとも分からなかった。
エミリアは、身体つきも貧弱で、入学当時からほとんど変わらぬ幼児体型。順調に成長し、女性としての魅力が開花した自分とは雲泥の差のはず。
性格も生真面目すぎて小賢しいし、ドミニクが彼女を愛していることが理解できない。
でも、ミンディはしんぼう強く、二人のそばにいた。
それは、どんなに硬い愛情でも、いつか必ず付け入る隙が生まれるはずだと信じたから。
結果、それは実現した。
二月前、エミリアの父が負傷して職を辞したと聞いたとき、ミンディは大歓喜した。
これはきっと好機に違いないとはっきりと分かった。
ミンディは前々から準備していたものや人を使い、エミリアの悪評を作り上げ、ドミニクを誘惑した。
……もちろん、そういったことは学園の規則でも固く禁じられていることだったが……年頃となったドミニクには、それは非常に有効な手段だった。
彼がエミリアに一目ぼれした頃は、皆子供も同然だったが、今ではもう違う。青年となったドミニクは、エミリアとは違い豊満な身体つきに成長したミンディに迫られると、すぐにコロッといった。
ちょうど学園が忙しい時期であったことや、エミリアの父が負傷し、彼女が実家に戻っていたことも、ミンディには非常に幸運であった。
ドミニクの両親も、実家に頼んで大金の持参金をちらつかせさせると、すぐに息子の婚約者をすげかえることを了承。
彼らが仕える伯爵のために、いつでも資金を欲していることは、親同士の付き合い上分かっていた。
何もかも、面白いくらいに思い通りに運んだのだ。
……それなのに。
あの日、忌々しいほどに堂々とダンスホールを出ていくエミリアを見た時。
ドミニクは、ミンディが隣にいるにもかかわらず、エミリアに対する未練を確かにのぞかせた。
あの目が、忘れられない。
あの、呼び止めたいと、待ってくれと請うような揺れる瞳は、今もミンディの心をひどく苛立たせる。
彼女は恨みに燃える瞳で決意する。
(……絶対に、追い出してやるんだから……)




