ミンディ・ハウンの逆恨み 1
ミンディ・ハウンは大いに不満だった。
宴の当日、計画通りにエミリアを陥れられた瞬間は、彼女も大いに気が晴れたのだ。
彼女はずっとエミリアが憎かった。
親友になるべく近づいたのは、もちろんドミニクのため。
明るくて、容姿も優れている彼は、入学当初から女子生徒の中では人気があった。
でもミンディは、彼は自分のものだとずっと確信していた。
彼と彼女の家は商売上のつながりがあり、彼女はドミニクとはもうずいぶん前から交流があった。
実技が得意な彼を見て、きゃあきゃあ騒ぐ少女たちを見ては、彼女はひそかに嘲笑った。
『バカね、無駄なことしちゃって。彼が好きなのはわたしなのに』
もうずっと前から、彼女は富豪である父に『ドミニク様の妻になりたい!』と、ねだり続けていた。
そんな彼女に、父はいつも、『しかし、あちらは貴族の方々だ。我々とは住む世界が違うのだよ』と、困った顔をしていたが、それでもミンディは絶対に諦めなかった。
『なんでよ! うちは金持ちでしょ! お金があればなんだってできるはずじゃない!』
世間はどうか知らないが、両親に溺愛されていた彼女は、邸では王女も同然。
彼女が命じれば使用人はなんでもしたし、望めばなんでも手に入った。
だから彼女がこんなにも望むドミニクが手に入らないなんて、彼女には理解できなかった。
彼女がしつこく懇願し続けると、父は諦めたように、
『分かった分かった。なんとか方法がないか探ってみるから』と約束してくれて。これはもう、絶対にドミニクと自分は結婚できるものだと、彼女はすっかり思い込んでいたのだ。
けれども、思いがけないことが起こった。
ずっと慕っていた彼を追うようにして入学したハイトラー学園で、しかしドミニクはすぐにエミリアに好意をよせるようになる。
そのときの失意ときたら、まるで世界が崩壊してしまったかのようだった。
彼の妻になるのは絶対に自分だと思っていたのに、彼ときたら、彼女と出会って以降ミンディには目もくれない。
だからミンディはエミリアに近づいた。彼女の親友としてなら、彼のそばにいられたから。
それは、毎日エミリアにかまい倒すドミニクを見なければならないという、屈辱の日々。
エミリアは、高名な騎士を父に持つ娘で、考えていることが全部顔に出るような素直な女の子だった。
見た目も小さくて、キレイな色彩に恵まれたフワフワとかわいい女の子──かと思ったら。
実際付き合ってみると、彼女はやたら真面目だし、騎士を父に持つだけあって考え方が武闘派だし、そのくせ身体が弱いという意味の分からない存在だった。
フワフワなんて程遠い。いつもゼイゼイはあはあ。やめればいいのに、棒切れを剣に見立てて振り回しては付き人に怒られ、でもめげない。
心配されると申し訳なさそうな顔をするのに、彼女のなかには大原則『父のようになりたい』があるせいか、絶対に譲らないのだ。稽古も、勉強することも。
そんな彼女を見て、そのひたむきさに惹かれ、ひ弱さに庇護欲をやられたのがドミニク。
でも、ミンディはエミリアが当然気に入らない。
何度も密かに意地悪をしたが、なぜかそれはエミリアには効かなかった。
おそらく、誰かにいじめをされているとは、気がついていたと思う。
しかし、エミリアの中にはずっと『お父様は命さえ賭して国に尽くしておられる』が、あるせいで、彼女は信じられないくらいに精神がタフだった。
宮廷での父の苦心に比べれば、学園で自分に降りかかることなど、些事にすぎないと斬って捨て。
誰かに物を壊されようが、後ろから突き飛ばされて顔面強打し鼻血が出ようが、食事に異物混入されて腹をゴロッゴロに壊そうが。
それは彼女にとってはすべて些細な事と流された。
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