やさぐれ令嬢のニワトリ 2
あの災難のあとから、明るかったエミリアはすっかり変わってしまった。
以前の彼女は、多少生真面目すぎるところはあっても、とても純粋でほがらかな娘だったのだ。
国王親衛騎士の父を持ち、本人も、その父に恥じぬようにと励み、成績も優秀な彼女。
輝くような白銀の髪と白肌に、ミントグリーンの瞳は、雪原にエメラルドを落としたかのよう。
身はほっそりと華奢。いかにも深層の令嬢といった風体だが……実は思考は父に似て若干武人。
父を尊敬し、もともとは彼と同じ騎士を目指していたのだが、病弱で早世した母に似てか、身体が虚弱でそれは断念せざるを得なかった。
ガッツはあるし、武芸センスもあるのだが……いくら訓練しても体力がつかず、無理をすると倒れ、悲しいほどに筋力が育たない。
身体を強くしたくて、食にも気を使ったが、冷たいものと脂に極端に弱い腹がそれを阻む。
ミルクを飲めばお腹が痛くなるし、肉の脂身を食べると気持ちが悪くなる。
そもそも若者ばかりの寄宿学校の食堂では、こってりした濃い味付けの食事ばかりが出て、エミリアにはかなり過酷。
それでも果敢に挑もうとする彼女のまわりには、その不憫さからか、いつも“エミリアの保護者”を自称する友がいたもの。
その筆頭が、彼女に入学早々に一目惚れをして交際を申し込んできたドミニクと、その後、いつの間に親友というエミリアの特別な場所にいたミンディだった。
ニコラの目から見ても、この三人の親密さは特別で。彼らと付き合い始めてからは、ファザコン気味だったエミリアも『お父様が』『お父様が』とあまり言わなくなった。
ドミニクたちにふりまわされ気味だなと心配することはあったものの、それはそれなりで、学生らしい生活なのかな……と……ニコラも思っていたのだが。
まさか、ここへきて、令嬢があの二人にこうも手ひどい裏切りを受けるとは。
しかし、おそらくそれにはエミリアの父が先々月に怪我で騎士を辞め、国王のそばを離れたことが大いに関係している。
ドミニクの父は子爵で、ある伯爵に副官として支えている。
ドミニクの父も、伯爵も、宮廷での派閥争いには非常に積極的な人物である。
辞職の際、それまでの功績から男爵位をたまわったとはいえ、地方に引き、中央政権から遠ざかった父の娘エミリアは……おそらく彼らにとっては、大富豪の娘ミンディよりも有益ではない。
そんな裏事情がうすうす分かっているからこそ、エミリアがあの二人を強く追求したがらないのだと、ニコラにも分かっていた。
そんなことが明らかになり、父の耳に入ってしまえば、彼が気に病むと案じているのである。
これは、父親想いの彼女らしい選択であった。




