やさぐれ令嬢のニワトリ 1
吐き捨てたかと思うと、彼女は“アイロンをかける”などと言っていた言葉とは裏腹に、新聞をくしゃくしゃに丸めて乱暴にポケットにつっこんだ。
その様子を見たニコラは、密かに彼女らしいなぁと苦笑。
いくら腹の立つ内容の新聞でも、エミリアはけしてその辺に捨ててしまったりはしない。
……まあ、まさか、本気でアイロンかけて保存などはしないだろうが、多分あれはきちんと部屋のゴミ箱に捨てられる。素直ではないが、生真面目な性格なのである。
不愉快そうな令嬢は、人気のない学内庭園の花壇のすみに腰を下ろしている。
その足元には白い影。
彼女の足をツンツンとつつく生き物を、エミリアは黙って膝に抱き上げた。
それでも令嬢のすねたような表情は治らなかったが、その手は優しく白い羽の上を行き来する。
と、ニコラが聞きづらそうに訊ねた。
「あの……お嬢様。それでその子、どうするんですか……? あんな男にもらった鶏でしょう? 手元に残しておくんですか……?」
それはつらくないかとニコラが聞くと、雄鶏はニコラを睨んでコケッと鋭く鳴いた。どうやら、抗議の一声である。
この雄鶏は、一年ほど前にドミニクが連れてきた。
『君の使用人も鳥人族だし、好きなんだろう? ほら見て、ニコラときょうだいみたいじゃない?』と。
……いや、確かにエミリアは鳥が嫌いではない。
しかし、ただでさえ学業が忙しいときに、ペットが欲しいなんて、彼女は一言だって言っていない。
……にもかかわらず、ドミニクはいかにも『いいことをした!』という顔で彼女にそれを押し付けて、学園側からも、ヒヨコの飼育許可を勝手に得てきた。
これにはエミリアは、ウッと思ったが……婚約者の嬉しそうな顔を見てしまっては、突っぱねることができなかった。
そんな無計画な彼に、いたいけなヒヨコを返してしまっては、ヒヨコの行く末が心配になったというのもある。
そんな経緯もあって、学業のかたわら世話をしはじめたヒヨコは、いまや立派な雄鶏。
気は強いし、声はけたたましく大きい。
育ての親のエミリア以外には懐かず、彼の跳び蹴りはなかなかの威力。
強烈な声があまりに大きくて、とても寮では飼えず。こうして学園内の庭園のはじに小屋を建てさせてもらって世話を焼く日々。
……それなのに。
ドミニクはといえば、やはり彼女に鶏を贈ってしまったあとは、その鳥に無関心。
一度だって世話をしたこともない。
あの頃からすでにあの男は怪しかったわよね……と、ニコラは心の中で苦かった。
けれどもその雄鶏を抱いたエミリアは、冗談じゃないという顔で首を振る。
「何言ってるの、パールとあのろくでなしとは関係がないわ。わたし、絶対にこの子を手放さない!」
エミリアはしっかと意固地な顔で鶏を抱きしめている。腕の中のパールはドヤ顔。これにはニコラがイラっとした顔をしたが……。
エミリアは、うつむいてつぶやくようにこぼす。
「……この子とあなただけがわたしの支えなの。手放せっこないわ……」
「……お嬢様ったら……」
しょんぼりそう言われると、ニコラもとても弱かった。




