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“ハイトラーの悪役令嬢”の、やさぐれ 7

 

 彼女の去ったあとの会場でも、ドミニクとミンディはあの演目を続け、まわりの同情を集めたし。彼らの仲間たちも、それを学園中と言わず、街中でも流布することに余念がなかった。

 ミンディに陰湿ないじめをして、ドミニクに婚約を破棄されておきながら、謝罪もせずに去ったのだと、なんて傲慢で恥知らずな女だと、皆が口々に言った。


 もちろん、中にはエミリアを擁護してくれる声もありはしたのだが……。

 今回の件で、すっかり人間関係に嫌気がさしてしまったエミリアが、以降誰にも会いたがらず、誰も彼女の弁解や説明を聞くことは叶わなかった。

 そうしているうちにドミニクらはいっそう勢いづき、擁護してくれた者たちの声は、しだいに小さくなっていってしまった。


 ミンディ側の学生たちは、学園に、エミリアに対する正式な懲罰を求めたが、それは心優しいミンディが止めたのだと噂に聞いた。


『たくさん悪事を働いたけれど、本当はいい子なんです、あまり責めないであげて!』

『きっと、気の迷いだったに違いありません!』


 しらじらしいことこの上ないその訴えに、学生たちも、学園側も大いに感動したらしい。


 けれどもエミリアは、それにはあちら側の思惑があったとみている。

 これ以上ことを大きくして、詳しく事実を調査されると、きっと困るのはミンディたちに違いないのだから。




 人目を避けてやって来た学園の庭で、エミリアは、はんっと鼻を鳴らす。


「いっそこの新聞、きれいにアイロンでもかけて保存してやろうかしら。そうすれば、わたしも人の無情さをずっと忘れないでいられる」


 多分この新聞だって、ミンディか、ドミニクのそばの人間たちが作ったに違いない。

 一方に偏りきった内容には非常に腹が立つが、この腹立たしさだって、自分の成長の踏み台にしてやるとエミリアは決意していた。

 おかげで憎しみに満ちた顔は険しく、その表情を見た付き人ニコラが苦言を呈す。


「……お嬢様……やさぐれないでください……そんな顔するから“ハイトラー校の悪役令嬢”なんて言われるんですよ……」


 ため息交じりの婦人の目は哀れみに満ちている。


「おまけにダンスホールでドレスを脱ぐなんて……お嬢様には恥じらいというものがないのですか……? あああ……アルフォンス様がお知りになったら、卒倒なさいますよ……」

「大丈夫。お父様はそんなに弱くないわ。恥じらいよりも、あのドレスを着続けていることのほうが屈辱的だったのよ」


 きっぱり返すと、ニコラの口からはながぁいため息。


 あの出来事以降。教師たちをのぞけば、このニコラだけが唯一エミリアと話をできる人物となった。

 ただ、このニコラは人族ではない。

 王都ではよく見かけるが、いわゆる彼女は鳥人族という種族。手足は人とあまり変わらないが、彼女の顔はヒヨコのような顔。

 もちろん彼女はとっくに成年ではあるのだが……たまご色の羽毛と、少し丸みを帯びた体型が、年齢の割に愛らしいこの容姿を作り上げている。

 羽毛に覆われた顔はフワフワ。そしてぽっちゃり体型。

 そのせいで、まるでヒヨコがメイド服を着ているような容貌だが、これでもすでに四十歳くらいであるらしい。

 ニコラは母が亡くなってから、忙しい父に代わってずっとエミリアの面倒を見てくれていた婦人。

 寄宿学校であるハイトラー学園には、学生たちは一人でやってくる決まりだが、エミリアは生来とても身体が弱い。頻繁に倒れられては学園も困るということで、彼女が成績優秀者であったこともあって、付き添いが許されていた。


 今回のことですっかり他人が嫌いになったエミリアも、ずっと世話を焼いてくれている彼女は別。

 ため息交じりに嘆くニコラに、エミリアは憮然。


「悪態なんか、勝手に言わせておけばいいのよ」


 すっかり拗ねた顔の令嬢に、エミリアは困り果てている。



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