初顔合わせ 1
この度、彼女エミリア・レヴィンには、義理の兄ができた。
妻を亡くし、ずっと独り身で自分を育ててくれた父が再婚して、その女性に連れ子がいたというわけだ。
父が大好きなエミリアは、ぜひとも新しい家族と仲良くしたいと熱望し、とても張り切っていた、が……。
「…………」
その義兄を見た彼女の眉間には、深いしわ。
身長差がありすぎる義兄を見上げているせいか、とてもガラの悪い顔に見えるが……別に不機嫌だったわけではない。彼女にとって、家族が増えるのはよろこばしいこと。
ただ……在学中のハイトラー学園で『悪役令嬢』の称号を押し付けられてから、最近の彼女は人族不信気味で、だいたいずっとこんな顔。
華奢で肌も白く、可憐な見た目にも関わらず、目つきが非常に悪く、態度も悪い──ということで。
悪役令嬢、に加え、『令嬢の皮をかぶったゴロツキ』とか、見た目の細さと白さ、そして三白眼を揶揄して『白蛇令嬢』などとも称されているが……。
正直なところ、最近悪意のあるあだ名をつけられすぎて、エミリアはもう諦めの境地である。
まあ、ともかく。
そんな経緯もあって、せめて家族とは信頼関係で結ばれたいとエミリアは切に願っていた、の、だが……。
張り切って新しく家族となる義理の兄と対面したエミリアは……早々に自信がなくなって途方に暮れた。
義兄は、小柄なエミリアと比べると、あまりに体格のいい御仁。
パッと見でも、エミリアよりも軽く頭ふたつ分は背が高い。目の前に立たれると、まるで壁。見上げると、つい口がポカンと開く。
しかし、それにも増してエミリアを戸惑わせた一番の要因は、彼が、人族ではなかったことだった。
……いや、別にそれはいい。エミリアは、学園で自分を大勢で取り囲んで責め立てた奴らと同じ人族が嫌いだ。
父のお相手が人族でないのなら、むしろ自分は戸惑うことなく仲良くできるのかもしれない。
それに、学園のある王都には、他種族も大勢いて、父がどうやら異類婚姻をしたらしいということは……聞いていなかったが……お父様、言っといてよ……とも思ったが……。まあ、別にかまわない。
お相手が父を愛し、父もその人を愛しているのならば、そこは少しも気にならない。
……ただ……。
しかし……それにしたって、と、思うわけだ……。
エミリアがぽかんと見上げる義兄の全身は、黒曜石のような黒いウロコに覆われていた。
夕日に鈍く照らされたつややかな天然の黒鎧は、なんとも美しく迫力がある。
そして、頭には鋭いツノが一対。
ガッシリした肩の向こうには、コウモリのような翼のはしが。脚の向こうには、長い尾がチラリとのぞいている。
エミリアを睨むように見下ろす瞳は、ルビーのような赤茶色。血の色に似たその瞳に映る自分の、なんと小さく見えることか……。
──そう、つまり義兄は……竜人族であった。
自分をジッと見下ろすドラゴン顔に、三白眼女子エミリアは、言葉を失くしてプルプルしている……。




