秘密 6
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「晴明様、亡くなっていたの?」
綾女は驚きのあまり目を見開いたまま固まった。
「なんだ、綾女もあの爺を知っていたのか」
「お父様と仲がよかったから……」
内裏で暮らしていたとき、何度か見かけたことがあった。
あの老人は位階の割に特別扱いされていて、昇殿が許可されていたのだ。帝から勅許が出ていたと聞く。
内裏を去ってからは一度も会っていなかったが、好々爺然とした楽しい老人だった。紙で作った蝶々を飛ばして見せてくれたこともある。
(……亡くなっていたの)
ずん、と胸の奥が重くなった。
どうしてだろう。あの老人は、いつまでも生きていそうな気がしていた。そんなはずないのに。
「そうだったのか。……まあ、死んでいるのは本当だが、世間的にはまだ死んでいないけどね」
「どういうこと?」
「今は俺が晴明だからだよ」
ぱちくりと目をしばたたく綾女に笑って、紫苑が術を使う。
綾女の目の前で、紫苑が銀色に緋色の瞳をした端正な鬼から、白い髪に黒い瞳の、しわくちゃの老人の姿に変わった。
「……へ?」
「姿かたちを変えられると、前に教えただろう? この姿で、俺は内裏で仕事をしている。と言っても、呼びつけられたときにしか行かないけどね。何せ、年寄りだから。ああ、普段は声も変えているよ。今はそのまま喋っているけど」
老人の姿で、青年の声で喋る紫苑に綾女は軽く混乱した。
(ええっとつまり……、晴明様はもう亡くなっていて、代わりに鬼が晴明様になって参内してて……ええ……)
確かに、これが世間に知られたら天地がひっくり返るほどの騒ぎになるだろう。
さらに言えば、数年前の幼女を攫う「鬼」の正体も絶対に知られてはならない秘密だ。
こんな秘密を知っていると知られたら、綾女は命を狙われる危険すらあった。
老人の姿から元に戻った紫苑が、軽く肩を回した。その拍子に衾が落ちて、綾女はそっと彼の肩にかけなおしてやる。室内はだいぶ温かくなっていたが、それでもまだ少し冷える。
「このことは秘密だよ、綾女」
「誰にも言えるはずないじゃない、こんなこと。……それで、晴明様がおっしゃった帝の星の影の正体はわかったの?」
「まあ、一応は」
「なんなの?」
「秘密」
唇に人差し指を立てて、晴明が笑う。
綾女は口を尖らせた。
「なんでよ」
「これ以上は、だーめ。内裏の秘密だから」
もう充分すぎる秘密を教えてくれたにもかかわらず、だめと言われてムッとした。
「運命共同体なんじゃないの?」
「そうだけど、まだだめ」
「いつならいいの?」
「そのうちね」
「兄様は大丈夫なの?」
「そんなに帝が気になる?」
「……気になる、というか」
綾女が気にすることではないと思うが、さすがに「帝の星に影」なんて言われたら不安になる。
すると、紫苑が腕を伸ばして、その腕の中に閉じ込めるように綾女を抱きしめた。
「ちょっと!」
離れようと腕を突っ張るが、びくともしない。
「綾女は誰の妻?」
「誰のって、紫苑のだけど……」
「じゃあ、気にしなくてもいいよね?」
どういう意味だと首をひねると、鼻先がくっつくほど顔を近づけられてびくりとする。
「次、同じことを訊いてきたら、その唇もらうね」
「え……」
もらうって、どういうことだろう。
文字通り唇を取られてしまうのだろうかと身を固くした綾女に、紫苑が楽しそうに声を上げて笑った。
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