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仮面夫婦の――妊婦妻になりまして。

遅くなって申し訳ございません。

本日2話更新です。

 ルーカスが国王……?


 いやいや、そんなイメージ湧かないんだけど。姑みたいだし。ティーナに至っては隣国に殴り込みに来てるし。十中八九、ルーカスも共犯だろう。


 完全に重大な国際問題に発展しそうな事をしでかしてる人が国王……?不安でしかない。どうなるんだ祖国。


 私の反応にルーカスは肩を竦めて苦笑いをした。


「酷いな。……まあ、アリサの言葉は分かるよ。成人しているとはいえ、まだまだ青二才。アルヴォネンの歴代国王の中でもだいぶ若い方になる」


 私より一つ歳上なだけの彼は、アメジスト色の瞳を瞬かせた。少し不安そうに。


 でも次の瞬間にはその様子は掻き消える。見間違いだったんじゃないか、ってくらいに。


「でも、まだまだ若かろうと、未熟だろうと、僕が次からはアルヴォネンを引っ張って行くよ」


 ルーカスは目を細めて穏やかに微笑む。彼の隣に座るティーナの薄氷色の瞳にも覚悟が宿っていた。

 アルヴォネンとは無関係ではないけれど、キルシュライトに嫁いだ私に手伝える事はない。


 ルーカスとティーナはアルヴォネン王国を、私はキルシュライト王国を、それぞれ支えていかなければいけないから。


 でも、わざわざ私のことを助けに来てくれたのは知っている。その気持ちは嬉しい。……嬉しいけど、もうちょっと何とかならなかったのか、なんて思う。


 特にルーカスは情に厚いタイプだから心配だ……。優秀なきっと誰かが止めてくれるはず。


 ほら、一応私のお父様とかいるし。

 でも結局は、ルーカスがアルヴォネンの国王になって、政治をしてみないと分からないんだけど。


 ルーカスは私のような能力の危険性も充分に理解しているし、おじ様みたいな圧政はしないだろう。


 きっと文官や武官に対して猜疑心を持つことなく、ルーカスの下に付く彼らも、しっかり意見が言えるような、元のアルヴォネンに戻ればいいな。


「……うん。応援してる」


 私に出来ることは彼らを応援する事だけ。その事に一抹の寂しさを感じながら、私は微笑んだ。


「ありがとう」とルーカスは穏やかな表情で礼を言う。そして、ローデリヒさんの腕に抱かれているアーベルに視線を移した。


「ところで、まだそちらの可愛い男の子についてまだ紹介してもらってないのだけれど?」


 ルーカスはニコニコと好意的にアーベルを見つめる。色々衝撃的な事を起こしたし、聞かされたので、すっかり忘れてしまっていた。アーベルの事について話すつもりだったのに。


「あ……ごめん!紹介が遅れたけど、アーベル・ホルスト・キルシュライト。正真正銘ローデリヒ様と私の子供だよ」


 アーベルはローデリヒ様のジュストコールのボタンを引っ張って遊んでいた。


「ほら、アーベル。挨拶は?」

「あー」


 ルーカスの方へ欠片も興味が無いらしいアーベルは、ローデリヒ様のボタンを引っ張りながら、彼の顔を機嫌よく見上げる。


 そんなアーベルに興味を示して貰いたかったらしいルーカスは、わざわざ立ち上がってローデリヒ様の傍に寄った。アーベルと目線を合わせる。


「はじめまして、小さな王子様。僕はルーカス。よろしくね」

「ほらほら、アーベル。ルーカスおじさんよ」

「まだおじさんって年ではないよ。お兄さんって言ってほしいな」


 私もローデリヒ様の傍に寄って、アーベルの頭を撫でながらルーカスを紹介する。ルーカスはやや苦笑気味に否定した。


 四人集まっているので、ティーナも猫のようにおそるおそるこちら側に寄ってくる。なんだか妹分の行動に微笑ましくなりながら、ティーナのこともアーベルに話す。


「こっちはティーナ。よろしくねって、ほら」

「て、ティーナよ。よろしく……」


 アーベルにおっかなびっくりしているティーナだけれど、考えてみたら私達って赤ちゃんに接する機会があまりなかったから、たぶんどう対応すればいいのか分からないのだろうな。


 でも、ティーナの事をジーッとガン見したアーベルが、触っていたボタンを離した。ティーナの方へと紅葉のような手を伸ばす。


「てぃー」


 ニコニコと愛想良くティーナに両手を伸ばしたアーベル。これは抱っこしてもらいたいサイン。


 まさか名前を呼ばれるとは思ってなかったらしく、薄氷色の瞳をぱちくりとさせて驚くティーナに「抱っこする?」と聞いた。


「い、いいのかしら……?」

「いいよ。他でもないアーベルが望んでるんだから」

「じゃあ……、するわ」


 ローデリヒ様からアーベルを抱き上げて、ティーナに抱かせる。ぎこちない手つきだったから、私が支えた。そうしてなんとかアーベルは、ティーナの腕の中に収まった。


「意外と重いのね……」


 ティーナの細くて白い腕が若干震えている。


 そうなんだよ。見た目が天使みたいな可愛い赤ちゃんでも、かなりの重さがある。

 生まれてすぐに抱っこした時、ちっちゃいのに中身がぎっしり詰まっている荷物のように重くて、それでも手とか足とか小さすぎて、内心怖々と抱いていた。


 そして、最初のうちはあまり重い物を持たない私にとっては負担が大きくて、しばらく腕が筋肉痛……を通り越して、腱鞘炎みたいになっていた。


 毎日ローデリヒ様に治癒魔法を掛けてもらっていたのを思い出す。

 そんなローデリヒ様は腕が痛くなる事なんてなかったらしい。常日頃から弓の弦を引いていたり、遠征にも時々行っているので鍛えているみたい。


 でも、最初の方は眉間に皺を寄せて居心地悪そうな、難しそうな顔をしていたので、きっと慣れなかったんだと思う。


 今ではすっかり様になっている。それどころか、すっかり親バカになっている。


 アーベルは意外とティーナの事を気に入ったみたいで、腕の中に収まっていた。でもやはり居心地はあまり良くないのか、微妙な顔つきをしている。


「かわいい……」


 ティーナの薄氷色の瞳に暖かな光が宿る。口元はむず痒いような、嬉しいような、曖昧な弧を描いていた。

 ルーカスもその様子を微笑ましく眺め、ローデリヒ様も穏やかな表情を浮かべて見守っている。


 心の中が暖かいものでいっぱいになる。自然と顔が緩んでしまう。


 ああ、これが幸せってことなんだろうな。

 なんて、漠然と感じた。




 ーーーーーーーーーーーーー

 ーーーーーーーー




 それから程なくして、ルーカスとティーナは大幅に遅れてしまった新婚旅行の続きをする為に、海の方の観光地へと向かった。本当に嵐のような二人だった。


 残りの滞在中は、ローデリヒ様がルーカスと何やらよく話していた。きっと襲撃についての後片付けとかの打ち合わせかな。

 ルーカスと話す度に、ローデリヒ様が「やはり、それなりに有能そうなんだが」と複雑そうな顔をしていたんだよね。


 うーん、考え過ぎだと思うんだけどなあ。


 それにしても、いいな……私もまだ海の方の観光地行ったことない。いつか行ってみたい。


 ローデリヒ様は今日は執務が早く終わったのか、アーベルの遊びに付き合ってくれていた。たまに忙しい時は深夜にベッドに潜り込んできたりする。王太子様ってやっぱり大変なんだろうなあ……。


 積み木で遊ぶアーベルに付き合っていたローデリヒ様は、ソファーでゆっくりくつろいで二人を眺めていた私に声をかける。


「どうした?身体はまだ辛いか?」

「うーん、ちょっとだけ、って感じです」


 悪阻はもうだいぶ治まってきた。アーベルの時にも体感していたけど、もうそろそろ悪阻は終わって元気が出てくるはず。悪阻で食べられなかった分、沢山食べたい。……栄養に気をつけて。


 よく見るとアーベルはもうおねむなのか、うとうとし始めていた。ローデリヒ様が抱き上げる。彼が軽く背中を撫でていると胸の中に収まって、そのまま数分後にはコテンと夢の中に旅立っていった。


「あっさり寝ちゃいましたね」

「……もういい時間だからな。遊び疲れも、もしかしてあるだろう」


 苦笑しつつ、ローデリヒ様は私の隣に腰掛ける。膝の上にアーベルを乗せて、片腕で支える。その間、アーベルは警戒心なく、ぐっすりと寝入っていた。


 私は手を伸ばして、アーベルの頭を撫でる。赤ちゃんの髪の毛って、すごく柔らかくて気持ちいい。寝顔がとっても穏やかで、顔を寄せて覗き込んだ。


「ローデリヒ様に抱っこされて、安心しきっちゃってますね。アーベル、ローデリヒ様の事大好きですし」

「そうか?アリサの方が懐かれているだろう?母親には負ける」

「そうですか?うーん、実感があまりわかないなあ……」


 ふっとアーベルから目を離すと、思った以上に至近距離にいたローデリヒ様の海色の瞳とバッチリ目が合った。なんとなく、お互いに逸らせずに数秒間見つめあった。沈黙が流れる。


 それを破ったのは、ローデリヒ様だった。


「その……、手を繋いでもいいだろうか?」

「えっ?!、え、あ、はい!」


 いきなりだったから激しく動揺しつつ、手を差し出す。ちょっと温度の高い大きな手のひらが、私の手を握りこんだ。


 ギュッ、ギュッと形を確かめるように数度軽く握った後に、彼の長い骨張った指が私の指に絡んでくる。指を撫でるような動きに、くすぐったいような変な気持ちになった。


「貴女は私の妻だ」

「え?……ええ、はい」


 キョトンとして頷くと、ローデリヒ様はほんのちょっとだけ拗ねたような声で言った。


「本来なら、もっと貴女に自由に触れて良いはずなんだ」

「はい…………はい?!」


 思わず目を剥く。言われた意味を理解して、じわじわと顔に熱が集まってくるのを感じる。よく見ると、ローデリヒ様も耳が少し赤い。


「だから出来るだけ早く、私に慣れてくれると嬉しい」


 はにかんだ夫を恥ずかしくて直視することが出来ず、完全に恋人繋ぎになっている手を見下ろしながら、私は消え入りそうな声で返事をしたのだった。




 ーー仮面夫婦の妊婦妻になりまして、最初は不安でいっぱいでしたが、旦那様は優しくて頼りになるし、息子は可愛いしで幸せに過ごしてます!

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